株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~   第77回

株式会社ジェットイノウエ 代表取締役社長 井上義勝様

株式会社ジェットイノウエ 代表取締役社長 井上義勝様

「“記憶に残るトラック”を。日本のトラックシーンのプライドを世界に向けて、いま魅せる!」

今回は創業から64年にわたって、トラックパーツやアクセサリーの分野でトップランナーとして走り続けてきた株式会社ジェットイノウエの井上義勝社長が登場です。JETといえばドライバーなら知らない者はいない“飾り”の一大震源地。数々のメッキパーツにホーン、インテリアパーツなど「あったらいいな」が「ある」パーツメーカーです。日本のデコトラシーンとも深く関わり合ってきたジェットイノウエ様とその歴史を振り返りつつ、ユーロスタイルのファストエレファントが様々なテーマを語り合います。スタイルは違っていても、「日本のカスタムシーンの矜持」や「ドライバーを幸せにしたい思い」はまったく同じです。将来に向けて、我々はなにができるでしょうか? ぜひご覧ください。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

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井上 義勝(いのうえ よしかつ)様
1968年生まれ。東京都出身。1993年 ㈱ジェット イノウエ入社、2000年 ㈱トラックショップジェット 代表取締役社長就任、2010年 ㈱ジェット イノウエ 代表取締役社長就任。現在に至る。

デコトラはアメリカの進駐軍のラッパから始まった

___個人的に非常に楽しみにしていたジェットイノウエさんの取材ですが、井上社長は創業から2代目の社長になるのでしょうか。

井上: そうですね。僕が社長になったのは 12年前ぐらいです。弊社の50周年を機会に先代の社長が会長になって、その時に就任しました。

___ぜひ創業の由来を教えてください。

井上: もともと我々はオートバイの部品を作っている会社でした。ロケットカウルなんかを作っている会社だったんですけれども、オートバイに乗る人が減ったこともあって業績があまりよくありませんでした。ちょうどその頃、第2次トラックブームがあって「トラックのアクセサリーが人気があるよ」と教えてくれる人がいました。それで始めたのがトラックパーツを手掛けたそもそものきっかけなんです。

___昭和40年代中頃に映画「トラック野郎」シリーズのブームが来て、貴社の創業は その10年前ぐらいなんですよね。その頃からトラックを飾る人気はあったわけですね。

井上: そうですね。その当時から海外での取引が始まっていました。日本でパーツを作るとどうしても高いので台湾の方で現地に詳しい方を通じて、パーツを作るようになりました。30年前ぐらいはナマズマーカーやバスマークとかしかなくて、パーツの品数が少なかったんです。その需要に我々の商品がはまって色々なパーツを供給できるようになり、お客様に喜んでいただきました。現在、流行しているユーロスタイルとは違ってデコトラは完成形がないので 元々あるパーツをどう加工して自分のトラックに取り入れるかが大事です。その元になるようなパーツをどんどん供給していって、現在のような品揃えになっていきました。

___台湾にはどんなパーツを発注していたのでしょうか。

井上: 最初にホイールライナーというトラック用のホイールカバーを作ってもらいました。 それが最初でしたね。そこからバンパーだったりメッキパーツを作ったり、広がりがでてきました。

___デコトラの歴史で考えると、もっと前には発案者がいたんでしょうか。

井上: もともとはラッパがスタートなんですよね。アメリカの進駐軍から払い下げられたラッパをトラックにつけている人がいて、「それどこで買ったんだ」と広がっていって、横浜の「なかむら」さん(トラックショップ)のようなところで買って、自分で取り付けられるようになりました。ここから板金屋で「ここ造ってくれ」というような飾りが始まったんです。そうやって裾野が広がっていった感じですね。

金華山にシャンデリアは「昭和の応接間」

___ジェットイノウエさんでは、その後のパーツの広がりはどういった感じだったんでしょうか。

井上: ほぼ同時だったんじゃないかと思います。まずホイールカバーが来て、バンパーが来てその後にバスマーカーとかが出来ました。その頃になると同時に直営店である谷和原店と神奈川店ができました。そこでお客さんたちのリクエストを吸い上げることによって、父(現会長)がどんどんパーツを展開していって広がっていったイメージですね。

___大型のガソリンスタンドでも販売されているような、ハンドルカバーやモコモコシリーズなんかはどうやって広がっていったんでしょうか。

井上: あれは別の日本の業者の方がやっていたんですよ。もともとあったものだったんです。

___モコモコって、なぜかあれをつけると運転しやすく、ハンドルが握りやすくなるんですよね(笑)。本当に不思議な商品です。

井上: もう20年以上ある人気商品ですね。その前は金華山のハンドルカバーかな。スタンダードは金華山だったんですけど、今はモコモコですね。

___店内を見させていただいて、金華山を使用した商品があまり見当たらないのが気になりました。

井上: 少し置いてありますが量としては少ないですね。金華山は関西の方が好きなんですよ。

中西: ではエリアによって置いてあるものが違うんですね。

井上: そうですね。関西だと金華山の商品が増えますね。金華山は日本で生地を作るので ちょっと高いんですよね。どうしてもお客さんを選ぶというか。そもそも手に入りにくいんです。

___その金華山にしろ、シャンデリアにしろ、何がイメージの源泉になってるんでしょうね。

井上: あれは昭和の応接間なんですよね。当時のソファーの生地が金華山のような生地でした。

中西: 昭和のトラックはすべてにおいて今とは違って質感が低かったんですよね。だから 飾る理由があったと思います。

___なるほど。

井上: だからこそ「俺の車はそうじゃない」と飾る意識が強くなったんだと思います。

デコトラは時間をかけて積み上げる

___1号店である谷和原店ができる前は、パーツを雑誌の広告などで販売していたんでしょうか。

井上: その前は現在でも続いているお客様の店舗に卸していました。卸しているうちにお客さんの情報がもっと欲しいし、「もっと売りたい」という気持ちもあって直営店の販売を始めたんですね。

___25年ほど前、大型店舗のガソリンスタンドで普通のマーカーを1個1000円ぐらいで買っていたイメージだったんです。それが昔から「1個500円だよ」と聞いてびっくりしたんですよね。そんなに安かった!? と。

井上: マーカーはですね。会長である父が歌麿会(デコトラ愛好組織)の会長に教えを請うてた時期があるんですよ。その時に田島会長から「トラック運転手は少ない小遣いの中でやりくりして、トラックを飾っているから、すぐ割れるマーカーぐらいは気軽に買える値段で売ってくれ」と言われたらしいんですね。本当の最初は多分、350円ぐらいだったと思いますよ。

哥麿会会長・田島順市氏はこちらの記事で。

___それはとてもいい話ですね。それで現在はさらに店舗数も増えましたね。

井上: 現在では10店舗を展開していますね。

___店舗での販売はやはりドライバーさんが仕事帰りに乗り付けて、買ってその場で取り付けるようなイメージでしょうか。

井上: 我々はピットも持っているので、だいたい我々がつけている方が多いのではないでしょうか。

___その辺はヨシノ自動車とも似ていますね。ファストエレファントで買ったパーツをその場でつけてもらう感じですよね。

アルフレッド: まあ、そんな感じですよね。

井上: ただそれはつけるだけじゃないんです。やっぱり「こうしてああして」というような要望がどうしても出てきちゃう(笑)。

___個性が出てきてしまうわけですね。個性をいかに磨くかというところですからね。アルフレッドさん、その辺はどうでしょう。

アルフレッド: アハハ。確かにそうですね。

井上: ユーロスタイルはだいたい形が決まってますよね。

中西: そうですね。

井上: デコトラは運転手さんが自分だけのスタイルでどうしてもやりたいので、レトロスタイルの中に自分らしさをどういう風に表現するかとか、どんなこだわりを持っているのかとか完成に向けて少しずつ作っていく。完成するには 10年以上もかかったりするんですよね。

___時間をかけて積み上げていくんですね。ユーロスタイルでも個性は大事で、やはり新商品が出ると誰もがいち早くそのパーツをつけたがるんですよね。

アルフレッド: そうですね。微妙な違いのやつが出てくると、日本のお客さんはそのつけ方にもこだわりがありますよね。

井上: そうなんですね。

アルフレッド: やっぱり個性重視なんです。他の人と一緒は「嫌だ」ってことなんですよ。ただあんまりユーロスタイルから外れるようだと「良くないですよ」 と注意はします(笑)。そうすると「じゃあ、これくらいにしとこうか」と落ち着きます。

井上: それはやはりユーロスタイルの和風化的なことなんでしょうか。

中西: そうですね。ユーロスタイルがスタイルとして認識されてまだ年数は浅いですけど、 そういう傾向も出てくると思いますね。

井上: 今後はユーロスタイルも一つのジャンルとして確立していくと思うんですよね。そうなるとそこに自分らしさは出したくなるかもしれないですね。

中西: 外はユーロスタイルでも中は金華山で飾っている人もいますね。

アルフレッド: 木材を DIYして備え付けの棚を外してオリジナルを作ったり、どんどんやっちゃう人はやっちゃいますね。

井上: そうなんですね。ここは日本だし「とてもいい」と思いますね。オリジナリティがありますよね。

アルフレッド: それが逆に向こう(海外)で受ける気もするんですよ。

井上: そうですか。私の実感としては日本では、すごくユーロスタイルが来ている気がしますね。

中西: 最近はそうかもしれません。我々が販売しているボルボも増えていますし、特にスカニアさんは、モデルチェンジ後に台数を大きく伸ばしてきているので、市場にどんどん出てきていますね。

JETとユーロスタイル

___欧州のトラックが入ってくるから、そこに合わせたカスタムをしようとすると母数が勝負になってくるわけですね。

井上: それと国産車も欧州車っぽくなってきていますよね。だからユーロスタイルが似合うんですよね。

中西: プロフィアなんかは特にそうですね。

井上: 今のプロフィアには昔のデコトラのバンパーとかつけられないですから(笑)。だからこそ昔のトラックに乗り続けていらっしゃる方もいる。鮮魚や野菜とか大手にあれこれ言われない積荷を運んでいる人は比較的、まだ仕事でデコトラを乗られている方もいらっしゃいますよね。

___年齢層的にはどうなんでしょう。

井上: やっぱり昔、全盛だった人たちがそのまま年齢もスライドしてきているイメージですね。 逆に若い人たちはユーロスタイルに惹かれるんじゃないかな。洗練されて見えますからね。

___ジェットさんの方でも、ユーロスタイルを取り入れたパーツを販売しているのでしょうか。

井上: はい。日野やふそうのトラックに合わせてパイプバンパーを作ったりはしています。 でもユーロスタイルはパイプバンパーやライトだったりなので、それ以上は我々としても 「やりようがないのかな」って思うんですよね。

アルフレッド: 実際に 日野やUD 用のパーツがないのは事実で、スカニアのパイプをつけていたりするんですよね。オリジナルで「あった方がいいな」とはいつも思っているんです。つける場所も無理なくつけられるようなパーツが欲しいです。

井上: そうですね。それは作りたいと思っています。日野とふそうが出来ていて、あとは いすゞ と UD でやろうかなと思っています。

アルフレッド: それは絶対に売れると思いますよ。

井上: あとバイザーもやりたいと思っているんですよね。アクリルのバイザーを作りたい。

アルフレッド: それもいいと思いますね。

井上: セノプロさんに聞いたら、ほとんどの人は無理やりつけているというのを聞いて「商品化できるかな」と思いました。

___やはり国産はバイザーの需要が高いのでしょうか。

井上: 日本ではヨーロッパっぽいアクリルのバイザーはないですけど、ご存知のように30年前はステンレスでこんなに前に出ているバイザーでしたからね(笑)。

___神輿のひさしみたいなバイザーですね(笑)。もう私ぐらいの世代になると、あのバイザーが「恰好いい」というのが DNA レベルに刻み込まれてるので、「アレしかない」となっちゃうんですよね(笑)。

井上: あれは船をイメージしてるんですよね。

中西: 昔、何度か乗ったことがありますが、あのバイザーは本当に見にくいですもんね(笑)。

井上: 重くなりますしね。それはともかく、今後は「ユーロスタイルも少しずつ取り入れていきたいな」と思っていますね。

デコトラを「記録」として映像で残したい

___ヨシノ自動車が今後、自分たちでパーツを作っていく中で、海外のトラックショーに出品する、と言った時に、彼らとしても「ジャパンメイドなもの」は作りたいわけです。そんな時にそのパーツをウロコステンにしたり、どうやって和のテイストを入れていくのか、と考えた時に傍目からは、ヨシノ自動車とジェットイノウエさんは「近いところにあるんじゃないかな」と思うんです。協業もありえるんじゃないでしょうか。

井上: こうやって色々お話していく中で、将来あるかないかは別としても、新しいアイデアや刺激を受けてお互いが研鑽できればいいと思います。

中西: それは本当に僕もそう思っています。デコトラの世界に実業として関わったことがほぼないので、せいぜい中古車で買い付けした時にデコトラを買ったというところで、そもそもデコトラは中古トラックにもほとんど流通していないんです 皆さんやはり仲間内で売買しちゃうんですね。たまに 弊社の得意先のダンプ屋さんが哥麿会などに所属していたりするので何回か、河川敷に見に行ったりはしていました。でもデコトラを弊社で扱うというところまでは行きませんでした。それと弊社の工場は認証を取った整備工場なので、デコトラを整備することが出来ないんです。

井上: 今は特にうるさいですからね。確かに車検が通らない点があるかもしれないけれど 日本の独特の文化なので、デコトラはどこかで「残した方がいいな」と思っています。我々がいま「じぇっとらTV」という YouTube番組をやっているのも「ジェット」という名前をほとんど出さなくても、デコトラにフィーチャーしているのも日本の文化なので何年後か何十年後かは分からないけれど出演しているオーナーたちもいずれ手放す時がくるかもしれない。いつか「俺の車がまた見たい」と言った時に、その映像を見れば記録として残っているわけですよね。そういった形で残していきたいと思っているんです。それで続けているんですよね。

___クラシックカーだと自分がもう持てないとなると、より良く乗ってくれるオーナーに引き継ぐという文化があります。デコトラもそうなるといいんですけどね。

井上: そうなんですよ。「持ちたい乗りたい」という人は多いんだけれど、なんせデカいんですよね(笑)。

___確かにデカいです。でも海外に持っていけばデコトラは間違いなく売れると思います。

井上: それ、よく言われるんですよ。排ガスの問題でなかなか難しいらしいんですけどね。 アメリカのラッパーに乗せたら、「めちゃくちゃウケるよ」なんてすごく言われるんですけどね(笑)。ちなみにそれは友人のファッション業界の人間に言われたんですよ。

___そうそう。あのネオンの文化がファッション業界の人には刺さるみたいですね。 やっぱりデコトラはスタイルとして1つ飛び抜けてるんですよね。

井上: 日本しかないですからね。海外にはない文化です。だからこそ現物で残せないなら せめて「映像だけでも残したい」と思っているんです。

___YouTube 番組の「じぇっトラTV」はどういった経緯で始まったのでしょうか。

井上: もともとはYouTubeの番組がどんどん流行してきたので、我々も最初は商品の紹介などをしていました 。それがどんどん変わってきて現在のような形になってきました。

___ドライバーの密着モノとかもされていらっしゃいますよね。面白いし、視聴数も非常に高いですよね。

井上: そうなんですよね。お客様にも喜んでもらっているし、「それはそれでいいかな」と考えています。日本の文化として「デコトラの記録を残せていけるのもいいかな」と思っています。

YouTubeチャンネル「じぇっトラTV」はこちら!

マーカーの選び方で「デコトラ」偏差値が分かる!?

___現在の人気のデコトラ・スタイルはどんな感じなんでしょうか。

井上: 現在は昭和50年代の「トラック野郎」当時のレトロスタイルが流行しています。角マーカーだったり、うろこステンだったり、その辺は定番のスタイルとして人気ですよね。メッキも昔はフルメッキにする方が多かったんですが、ワンポイントだったりスタイリッシュな傾向が強くなってきましたね。その辺は、ユーロスタイルに近いものがあるかもしれません。

___昔から中型のレンジャーに大型のバンパーをつけたりするスタイルってあったと思うんですけど、例えば現行のプロフィアに昔のスーパードルフィンのバンパーをつけたりするのは難しいでしょうか。

井上: 現行はライトが下についちゃっているから、それが難しいんですよね。実際にそれをやっちゃうとちょっとバランスが悪くなっちゃうんですよね。

___なるほど。

井上: だからどうしてもカスタムというと、ユーロスタイル風の洗練された感じになるんですよ。若い子のセンスだと、さらにそれが洗練されていく気がするんです。だからこそ映像としてデコトラは残していきたいんですよね。

___分かります。アルフレッドさんにお聞きしたいんですが、むかしデコトラ乗りだったけれど、今はユーロスタイルというドライバーの方も多いのではないでしょうか。

アルフレッド: 結構いらっしゃいますよ。というか、基本的にみんなデコトラは好きなんじゃないですか。あの年代の人たちだと。最近だとボルボに「ナイアガラをつけたい」というお客さんがいらっしゃったり、シャンデリアをつけたこともあります。金華山をダッシュボードに貼ったりと、みんな好きなんですよね(笑)。過去にはデコトラのバイザーをつけたお客さんもいましたよ。「何でつけたんだろう」って思いましたね(笑)

井上: そこはやはり日本人の心なんじゃないですかね(笑)。

アルフレッド: このお客さん、「デコトラが好きなんだな」と思う瞬間はマーカーの選び方ですね。「このマーカーをつけて欲しい」って持ってくるのはジェットさんのマーカーなんですよ(笑)。周りがメッキで「これは譲れない」って言いますね(笑)。ユーロスタイルなんだから「ユーロマーカーですよ」と言っても「これは譲れない」と言います。その瞬間に「あー好きなんだな」と思いますね(笑)。

井上: もはやトラッカーのDNA なんですよ。

日本独自のスタイルを世界に持っていきたい

___ユーロスタイルもぽっと出たブームではないんですよね。「人とは違っていたい」という気持ちがスタイルとしてユーロを選んだというだけで、ドライバーにとっては ユーロを「取り入れてる」という気持ちの方が強いかもしれないですね。

中西: そうですね。日本はどっちかと言うとそういう感じかもしれないですね。

アルフレッド: 人によっては ユーロになりきれてない人はいっぱいいます。

井上: そこから新しさが生まれる瞬間ですよね。

中西: はい。本当にそれでいいと思いますね。

アルフレッド: さっきのマーカーのお客さんの話ですが、「そのマーカーだとユーロっぽくないですよ」と言うと仕方なく、本当に仕方なくしぶしぶ諦める感じです(笑)。だいたい「任せるよ」と言って架装をお願いされるのですが、皆さんだいたい自分の好きなパーツは持ってきますね。そして渋々諦めるという。その光景は本当に面白いですよ。

___目に浮かびますね。

アルフレッド: あと日本はスタイルがごちゃ混ぜになっていて、ユーロスタイルと言っても 実際はアメリカンスタイルだったりもするんです。我々もピンストライプを描いていたりしているのでそこに加担しているんですが、もともと日本にはコンボイ的なアメリカントラックの流行があるので、アメリカンスタイルも人気ですよね。日本のスタイルはいろんなスタイルがまぜこぜになってますね。

___「トラック野郎シリーズ」もブームになりましたが、1970年代のサム・ペキンパー監督の「コンボイ」も日本のデコトラシーンに与えた衝撃は大きかったと思います。煙突マフラーはもろそれですよね。

『コンボイ』(Convoy)は、1978年にサム・ペキンパーが制作したアメリカ・イギリスのアクション映画。同名のアメリカの大型トラック運転手を題材にしたカントリー・ウエスタンのノベルティ・ソング「コンボイ(英語版)」を元にして製作された。主演はクリス・クリストファーソン。コンボイとは本来は護送船団の意であり、映画ではトラックが集団で走行する様子を意味している。日本での公開時には、本来の主題歌とは別にプロモーション用のテーマ曲(インストゥルメンタル)「コンボイのテーマ」(作曲・編曲・演奏:U.S.CONVOYS)が日本独自に制作され30万枚を売り上げた。( wikipediaより

井上: 日本はそれで良いんじゃないでしょうか。ヨーロッパの良いところとアメリカの良いところを取り入れつつ独自の形を作っていく。バリバリのユーロスタイルオンリーでもカッコいいとは思いますけど。

アルフレッド: そう。だからこそ、その上を行きたいですよね。結果的に「日本のスタイルが一番恰好いい」と言わせたい。新しいジャンルとして確立したいですね。ユーロスタイルにはユーロスタイルの流行りがありますし。来年、我々はトラックスターというトラックショーに殴り込みに行くわけですし。

中西: 日本で言うところのカスタムトラックショーですね。そういう展示会があるんです。

井上: ヨーロッパのどこで開催されているんですか。

アルフレッド: オランダですね。そういう改造されたトラックばかりを並べたトラックショーがあるんですよ。そこに何を持っていくかというところで、現在鋭意企画中です。中西社長とも話しているのですが、やはり「ジャパニーズで行こう」と考えています。

18万台あるボルボFHという市場

井上: ヨシノさんとしてはヨーロッパに進出したい気持ちがあるんですね。

中西: パーツとセットで展開したい気持ちはあるんですよね。もともと我々もボルボのディーラーをやっている中で、6年前ぐらいからファストエレファントというカスタムラインを立ち上げました。本来、もっと国内でやるのであれば国産トラックに手を出すべきだったんです。「やるべきだった」というのも本音としてはありますが、地道にブランディングをしていくところで、売上げを気にすることなくブランディングに注力することができました。おかげさまで、それによってそこそこの認知度を得ることができました。

___認知度は圧倒的に高くなりましたよね。

中西: とは言っても、日本国内においてはボルボのトラクターの販売比率は6%ぐらいだし、10% 行けば一大快挙なわけです。けれども世界で考えれば、ボルボはこのコロナ禍においても世界で18万台も販売されていました。日本は大型と4トン車を合わせても9万台程度です。市場の規模が違います。我々が販売しているFHは世界販売の8割に値します。右ハンドル左ハンドルの違いはあるにしても、外見はそれほど違わない。それであれば将来像は、その母数に乗っかって海外で販売するというのが大きな夢としてあるんです。来年はその第一歩目になるんですね。

井上: そうでしたか。我々はメッキパーツがメインなので、車の塗装に関してはよくわからないのですが、例えばオリジナルパーツを作った場合に、それは塗らずに生地のまま販売するのでしょうか。

中西: そうですね。

井上: ではお客さんが自分で塗って取り付けているんですね。我々がいま考えているのが、お客さんが赤なら赤に、自分で塗って使用できるパーツを販売しようかなと考えているんです。メッキはそのまま渡せば取り付けられますよね。それをこっちで塗って販売すると販売手数料がかかっちゃうので難しいかな、と思うんですよね。将来的にはそういうことも必要になってくるかなと考えています。そうなると「カスタム」という言葉が正しくなってくるのかな。これまであまり使ったことのない言葉なんですが。

中西: 「そうなるのかな」と思いますね。我々もはじめたばかりの事業ですし、個人的な見解ですが我々、日本人が考えた日本スタイルを海外で販売しても受け入れられる確率は低いと思っているんですよね。さっきの話なんですが、その国の文化に馴じんでいきますよね。

___たしかに。

中西: アメリカで寿司といえば、以前は日本にはなかったカリフォルニアロールだったわけです。そういうのと一緒で、日本人が考える「ザ・日本」が受け入れられるわけではなく、そこにうまく外国の価値観が合わさったものが受け入れられるのだと思います。どちらにしろ、試行錯誤は必要でしょうね。ちょうど来月にそれを兼ねた市場調査に行ってこようと思っています。具体的にどんなものが展示されていて、どんな評価をされているのかを知りたいです。

アルフレッド: 同じものを出してもやはり意味がありませんからね。どう、その商品を日本と結びつけるかが大事です。

日本のモノ造りがそのまま海外で受け入れられる訳ではない

___本当のところを言えば、「ザ・日本スタイル」が受ければいいんですけどね。 今日たまたまなんですが、東名で観音から下回りから本当に綺麗にウロコステンを張った造りボディの冷凍車が走っていました。「本当に綺麗だな」と感心して、「これは好きや 嫌い」を超越するなと思ったんですよね。日本の造りボディはほんと素敵ですよ。

井上: それを欧州に持って行って評価はされるかもしれないけれど、売れるかと言ったら別の問題になるんですよね。

___そうなんですよね。

中西: そこなんですよね。

井上: 自分の趣味でやるのであれば、商売度外視でやれるんですけどね。

アルフレッド: そうなんです。向こうの人が「これどこで買えるの?」と言った時に買えるものじゃないと難しくて、なおかつメイド・イン・ジャパンでなければいけないんです。

井上: やっぱりデザイン性でしょうか。

中西: デザイン性だと思いますね。「デザイン」と一言で言うと簡単だけれど、ものすごく 奥が深いから、そう簡単にヒット商品を出すのは難しいと思いますけれども。

井上: でもきっとチャレンジする価値はありますよね。

___そこはジェットイノウエさんの方で、一度デコトラを持って行って展示してみるのはアリだと思いますよ。

アルフレッド: アリだと思いますね。

中西: そう。傍から見ていてもそう思うんですよ。ジェットさんとしての何十年という歴史があるし、結果的に文化を作り上げてきた企業なわけです。これだけのパーツを世の中に 供給してきたのですから。あとはどう組み合わせるかが問題なだけですね。

___それは僭越ながら、本当にジェットさんがやるべき事業だと思いますね。他にはどこもできないからジェットさんに期待するしかないところもあるんですけれど(笑)。

アルフレッド: じゃあ一緒に行きましょうか(笑)。そもそもヨーロッパのショーは日本の企業が少なすぎるんですよ。国産4メーカーもあるのにハノーバーに行った時にブースはどこも出していないんですよ。強いて言えばダイムラーでキャンターが出ていたぐらいです。日本が出ていないということに、ものすごく寂しさを感じたんです。日本ってもっとすごい国だったろうって。これまで発展途上国だと思われていた国のメーカーが頑張って出している中で、日本ではバッテリーの会社とかが唯一、頑張っているんですよ。我々としては、大きな日本ブースをどうしても出したいんですよね。ハノーバーはちょっとかしこまっていて、メーカーメインなんですけど。

中西: ハノーバーは日本で言えば自工会がやっている東京モーターショーみたいな感じです。

井上: オートサロンみたいなイベントもあるんですね。

中西: そうです。我々が今回出品したいのはオートサロンの方です。

アルフレッド: 部品ショーだけで言えば「オートメカニカ」というイベントもあるんです。 ハノーバーと同時期にやるんですが、もっと小さいブースがあってそちらの方が「面白いかな」とも思っています。まぁ、部品を売りに行くのであれば、そっちですよね。ジェットイノウエさんはすぐにでも出品できますよ(笑)。品揃えもばっちりだし、色んな国が参加していて自分の国の部品を販売しているんです。

「ファストエレファント×JET」でカスタムボルボを造るなら

___そうですね。ナマズマーカーを持っていったら「こんなマーカーあるんだ!?」って売れちゃうかもしれないですね。取り付け例にデコトラを持って行って。

井上: ヨーロッパ車のどこに付けるのか楽しみですね(笑)。

アルフレッド: ヨーロッパで売れるとまた違う道が開けると思うので、うちもそれに便乗したいぐらいですよ(笑)。

井上: 面白いかもしれないですね。

中西: それはそれとして、いちどボルボに全部、ジェットさんの商品をつけて1台造ってみたいね。

アルフレッド: コラボとしては大アリだと思いますよ。ニュース性はめちゃくちゃ高いと思いますね。ムーンアイズさんとやった時みたいに、盛り上がると思うんですよね。

___おお。ファストエレファント×JET。めちゃくちゃアリですね。それ絶対に見たいな。どんなイメージですかね。

井上: やっぱり我々のイメージはフルメッキでしょうね。

アルフレッド: そしてやはりバンパーは前に出すとおもいますね(笑)。

井上: 欧州のボルボもコーナーパネルとかは、メッキパーツがありますよね? むかし弊社で一度作ったことがあるんですよ。もちろん、もう10年以上も前の車でしたけれど。

アルフレッド: いまヨーロッパはメッキをやってないんですよね。全部塗りになっちゃっています。多分、環境の問題だと思うんですけどね。日本ではメッキは大丈夫ですし、向こうに出すならステンレスを貼り付けちゃう。ちょっと質は落ちちゃうけど、やってる人はいますね。

井上: そうですね。やっぱり日本ぽいとなるとメッキだったり、イルミネーションが光る感じかな。

中西: アジア全般がそうですよね。タイのトラックとかもキラキラ光っていますからね。

___それとやっぱり内装にこだわりたいですよね。 金華山にナイアガラで決めたいですよね。

アルフレッド: 最近、シートの生地をよく見ているんですよね。金華山とかもたくさん見ているんですよ。ユーロスタイルとうまく融合できないか、と思って。そこでだんだん染まりつつある自分に気づくんです(笑)。だんだんと柄とか詳しくなってくるし、そもそもなかなかない素材なんですよね。自分もユーロトラックの人間とはいえ、好きな和柄があるんです。鯉の柄がすごく好きで、和彫りの刺青も好きなんですけど、実はここだけの話、サンプルをもう作っていたりするんです。

井上: そうなんですね。

___マジですか!

アルフレッド: それは結局、龍になったんですけど、 貼ってみたらどうなるのかすごく気になったんです。形は純正のボルボのシートで、真ん中の背もたれを金華山にしたり、和柄にしたり千鳥柄はサンプルでももらっているんです。フェルトサンプルをもらって、ヨーロッパでどれぐらいだけ受けるか、持っていこうと。架装屋さんは結構いろいろ回ってくるつもりなので。

井上: ヨーロッパはトラックにそういう架装をする人っているんですか。

アルフレッド: めちゃくちゃいますよ。

中西: 今回行くのはオランダですけど、ドイツでもイタリアでもフランスでもそういう文化はあるんですよ。しかもなかなか大きいイベントなんですよね。日本の規模でいえば、富士スピードウェイを全部貸し切って、駐車場とかピットをフル活用して1000台レベルでトラックが集まってくるんです。

アルフレッド: そもそも走ってるトラックがほぼカスタムされていますからね。向こうのパーキングエリアとかに行くと、テンションが上がりますから。

再び、トラックドライバーは稼げる職業に戻れるか!?

___さてこれが最後のテーマとなりますが、2024年問題もありドライバー不足はこれから深刻になると言われています。その中において、自分の使うトラックをカスタムして仕事にやりがいを感じるというところで、ジェットイノウエさんの貢献度はとても大きいものだと思うんです。

井上: 言い方がちょっと雑かもしれませんが、いわゆるサラリーマンのように決められた時間に出社して、決められた時間に退社するというような生き方が嫌な人が多いんですよね。上司にあれこれ言われるのも嫌な人が多いんです。そういう人たちにとってトラックドライバーは天職ですよね。だからこそ世間の目もそうですが、トラックを自分が好きなように飾るぐらいは大目に見てもいいんじゃないかと思うんですよね。基本的にデコトラに乗っている人たちは安全運転だし、一般的には荒い運転のようにイメージされているかもしれませんが本当は違うんですよね。

アルフレッド: 今日、井上さんに初めてお会いしてびっくりしました。ジェットイノウエの社長さんだから絶対に、もっといかつい人だと思っていたんです(笑)。

井上: それ、よく言われますよ(笑)。トラックのアクセサリーを作っていると言うとものすごくいかついイメージを持たれるんですよ。「ずいぶん普通の人が来ましたね」という感じなんでしょうかね(笑)。本当にそれ、よく言われるんです。

___ドライバーがドライバーらしくあるために、ジェットイノウエさんのパーツがある訳です。そのドライバーの気持ちを応援してくれているというか。自分が運転手でお店に出入りしていたから分かるのですが。

井上: トラックドライバーのごく一部ですけれども、その一部のお客さんでも自分のトラックに楽しく乗るために、これからも商品が供給できたらいいなと思いますね。どうせ1日乗っている車なんですから好きに飾って、楽しく乗って満足してもらえるなら「それでいいのかな」と僕は思っています。そこはヨシノ自動車さんも一緒だと思うんですよね。

アルフレッド: こういう仕事は、やっぱりお客さんが一番喜ぶんですよね。僕はもともと 整備をやっていたんですが、お客さんはだいたい怒っているところから始まります。壊れていて、直ったら「ありがとう」と言って喜んでくれます。カスタムだと最初のパーツ選びから喜びしかないんですよ。「喜ぶことしかやってないな」と思うんですよね。本当に何かをプラスしていく仕事なんですよね。ジェットイノウエさんの仕事も絶対そうだとおもうんです。

井上: 本当にそういうところは、もうちょっと認めて欲しいですよね。規制はあって、なかなか厳しくて自由にはやれないんですけどね。

中西: 日本は特に厳しいですね。

井上: 最近の日本はやっとトラックドライバーが荷物を運ばないと、誰も生活が成り立たないということが分かってきたでしょう。もっとドライバーさんに対して優しくなる世の中になってくれたらいいなと思いますね。今回の2024年問題をきっかけにしてね。もともとトラックドライバーは稼げる仕事だったのに、この30年でだいぶ厳しくなりました。ドライバーが稼げる仕事になればまた人材は戻ってくると思います。

___本当にそこですね。

井上: 我々がそこに何かできるかといったら、そんな会社ではないので、世の中は変えられませんが。

中西: そうおっしゃいますが、影響力はなかなか大きいと思っています(笑)。トラックのカスタムの中では断然そうですが、トラック業界全体の中でも存在感は際立っていると思います。井上社長は先ほどトラックドライバーの一部の人とおっしゃってましたけど、確かにそうなんですよね。実際はデコトラに載ってない、トラックドライバーさんが大半ですけど、ジェットさんを知らない人はいないですし、その影響力は大きいはずですよね。

___別に外装を飾りつけなくても、ジェットさんで買ったモコモコをつけてるだけのドライバーはたくさんいるはずですからね。

中西: 大手のクルマで飾りは一切ダメっていうところはあります。そういう極端なところ以外は皆さん、ジェットさんの商品を何かしら使っていると思いますね。それとここだけの話 なんですが、2024年問題は個人的に最終的に良いところに着地するんじゃないかな、と期待しているんですよね。こうやってマスコミに取り上げられることで危機感が高まり、荷主さんとの交渉も上手くなっていって運賃が上がって行くという流れが、あと1年半は続くはずなんですよ。

___結果、運賃が上がってドライバーが稼げる職に戻るということですね。

中西: トラック協会や大手運送会社さんは、このマスコミに注目されている機会を利用して 運賃を上げることに奔走しているはずですよね。

井上: そうだといいですね。稼げれば絶対にドライバーさんは入ってきますから。

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