株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第69回

第69回  株式会社ヨシノ自動車 デザイン室

第69回  株式会社ヨシノ自動車 デザイン室

「デザインで未来は変わる!理想をデザインするトラック会社のクリエィティブエンジン」

ヨシノ自動車にはデザイン室があるのをご存じでしょうか?自社広報ツールのデザインや販売促進ツールのデザイン、さらにはボルボのカスタムラインであるファストエレファントのカスタムトラックのデザイン、依頼を受けた企業のロゴの製作などその活動はどんどん多様化し、存在感を高めつつあります。今回の鍵人訪問記ではムーブメントを引っ張るデザイン室の2人にスポットライトを当て、その活動を紹介するとともにデザインの力がいかに企業を変えていくのかを論じます。営業成績のように一見数字には出ない世界ですが、その貢献は数字で硬直しがちな企業の価値観をしなやかに変えていくポテンシャルがあります。ヨシノ自動車は、クリエィティブの力でなにを変えようとしているのでしょうか。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

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茂木千紘(もぎ ちひろ)
デザイン室長。通称:レディC。ヨシノ自動車のクリエィティブエンジン。経営的思考を持ちながら個性きわだつデザインで広報活動を全方向的にサポートしている。

増山夢帆(ますやま ゆめほ)
デザイナー。愛称:ゆめちん。もっか絶賛修行中のデジタルを主戦場にするデザイナー。

なぜトラック販売の会社にデザインが必要なのか

____そもそもトラックの販売を主軸にしたヨシノ自動車が、なぜデザイン室を持つようになったのか教えてください。

中西:もともと現在のデザイン室長である茂木の前に美大卒業の社員が働いていました。もう結婚して退社しているのですが、彼女が入社したのは10年前ぐらいだったと思います。当時は新卒採用を始めて数年経ったぐらい。我々の仕事はトラックの販売なので営業募集で採用活動を行っていました。それと同時にホームページに力を入れていく中で常にレンタカーの広告チラシを作るとか、営業のツールとして広報ツールを作るようなことをやっていたんです。でもそれは全部、外注に出していました。大体は急ぎの仕事で2~3日の納期でお願いしていたんですが、「ちょっとそれは良くないな」と思っていたんですよね。ヨシノ自動車も、買取から販売をして整備も行っているし業種は多様です。それであれば、いっそデザインも内製化する方が「スピード感がある」と考えました。ですから採用活動の中で、試験的に「デザインが出来る人材をとりたい」と考えたのがきっかけです。

____社内広報ツールなどのデザインができる人材ですね。

中西:そうですね。新卒採用の枠の中にもデザイナーを入れました。彼女はその時に来た学生だったんですね。はじまりはその人材が入ってからです。今までそんな部署はないし、仕事内容も過去にはありませんでした。弊社には「共走」というデザインの文字があります。彼女は車の免許も持っていなくて、車もトラックも一切興味がないのにあのロゴを見て「可愛い」と感じてヨシノ自動車に入社したとのことでした。

____なるほど。このロゴはどこが制作したんですか。

中西:今でも採用活動や人材教育のプランニングをお願いしている会社の制作物です。私たちの意向を聞いてもらって一緒に作ったという感じですね。

スタートは営業として入社した

____なるほど。そこに茂木さんが入社するわけですが、どういった経緯があったのでしょうか。

中西:茂木の場合はやはり美術系の大学に行っていたんですが、そもそもデザインを志して入社はしていないんです。

____営業職として入ってきたんでしょうか?そもそも中西社長はデザイン職を作ろうとしていたんですよね?

中西:そうですね。

____私も茂木さんに初めてお会いしたのは日野プロフィアの発表会の時で、「女性の営業職がいるんだ」と思ったのを記憶しています。もともと営業を志していたんですね?

茂木:志していましたね。すごく何度も確認されましたけど(笑)。

____確認されたというのは?

茂木:「どういう仕事か分かってる?」って(笑)。

____この業界は男性社会だから心配されたんですね(笑)。社長は茂木さんが美大卒というのは知っていたんですよね?

中西: 知っていたし、卒展みたいなのも見に行きました。そういうことも踏まえて「本当に営業なの?」と何度も確認しました(笑)。

茂木: 「営業をやりたい」というよりはデザインに固執するのが嫌だったんです。会社のあらゆる仕事を体験してから「デザインした方が良い」と思っていたんです。それで入り口は営業でしたね。

____それで営業はどうでした?

茂木:楽しいこともいっぱいあったのですが、この業界のお客さんは女性には「なかなか大変な環境だな」と思わされました。怒られるのはいいんですが、セクハラっぽいこともありました。学生の頃まではやっぱり「大人に守られていたな」と感じましたね。「約束と違う」ってことも何度もありましたし、「これまで知らなかった大人の社会を感じた」と言うんでしょうか(笑)。その反面、勉強になったこともいっぱいあって、人付き合いだったり交渉の仕方だったり、やはり今にも生かされてると思います。「やってよかったな」とすごく思いますよ。

大好きなデザインを仕事にする不安

____ストレスの大きい営業の日々の中で、「早くデザインがしたい」って思いませんでしたか。

茂木:それはあまり思いませんでしたね。営業をしながらも片手間でデザインの仕事はしていましたから。社長も色々と仕事を振ってくれましたし、そのうちにトラックショーとかもやらせてもらえるようになって、そもそも私自身が同じことをしているのが苦手なタイプなのでいろんなことができて満足しています。

____美大卒となると専門職を選ぶ人が多いですよね。広告会社のデザイン部だったり、それこそ本当にアーティストを目指す人だったり。

茂木:そうですね。就職活動も最初のうちはメーカー企業にいったり、「いいなぁ」と思ってる玩具メーカーを受けたりもしていたんですけれど、落とされたり、活動中の周りの人達を見ているうちに、自分が好きなものを作っているのも最初は楽しいかもしれないけれど、「それが習慣になってしまうと病んでしまいそうだな」と思ったんですよね。

____創り続けることへの不安みたいなものがあったんですね。

茂木:うーん。大好きなことを仕事にするというのは「どうなんだろう?」って。それで嫌いになっちゃったらイヤだな、とか。

____なるほど。ちなみに茂木さんの専攻は何だったんですか?

茂木: プロダクトデザインです。

____企業に入って商品デザインをする勉強をしていたんですね。ヨシノ自動車もデザインの仕事として、チラシとかだけではなくて本格的なデザインの方向に入ってきましたよね。それこそショーカーのトラックをデッサンしたり、他の会社のロゴをデザインしたり。そもそもそこまでデザインを売りにする仕事はなかったですよね。

中西:なかったですね。もともとデザインのベースがあるわけでもないし、その仕事がメインではないですよね。片手間で始まったことだけど、そのベースはずっと自分の中にはありました。つまり企業経営の中で代理店をしたり買取販売だったりという中間マージンのビジネスを続けるかたわらで、ゼロから何かを生み出すことを「やりたい」という気持ちは漠然とあるわけですよ。最初はボディーメーカーのようにもともとのヨシノ自動車らしい事業に特化した「ものづくりをやりたいな」と思っていたけれど、これはハードルが高いんです。人材として職人も足りないし、設備も足りていません。「やります」と言ってすぐできるものではないんですよね。

自然発生的にデザインが求められてきた

____たしかに。

中西:そんな時に並行してボルボを販売している中で、お客さんの中に熱狂的なボルボのファンがいる。「こういう塗装したい」「こういうパーツを付けたい」と「こんな踊り場を作りたい」。そういうリクエストがあって、初めてそういった要望に対して外部も含めて弊社から提案を出していきました。

____お客さんの熱いリクエストから、ヨシノ自動車のクリエイションが引き出されるんですね。

中西:そこでトラックショーという良いタイミングがあって、それまではお客さんの要望するものに応えていたけれども、あらためて我々が思う「恰好いいカスタム」を出していきたくなりました。そもそも僕も乗り物は大好きだけれども、トラックだけが特別に好きなわけではないんです。それは茂木と一緒だから、ちょっと距離がとれている分、僕も「この仕事に合っているな」とも思う。そんな自分たちが「恰好いい」と思うトラックを出したいな、と。だったらオリジナルでゼロからデザインしたい。そう思えたときに、そのタイミングで茂木がいてくれたから、やることができたんですよね。デザインを頼まれても凄くやりやすかった。ヨシノ自動車にはもともと茂木がいますから。それが2018年、今から4年前ですね。

____デザイン室として独立したのは何年前ぐらいですか。

中西:2年前ぐらいですね。

____茂木さんはその辺はどうですか。変化を感じますか。

茂木: 片手間じゃなくて、「デザインが認められるようになった」とは思います。部署としてもあるし、ちゃんとビジネスになるところなんだって、だんだん社内や社外の皆さんにも浸透してきた気はします。

____良いタイミングでしたね。

中西:今にして思えばそうですね。デザインが自然発生的に必要なものとして、定着しましたね。

____クリエィティブ疲れみたいなものはないですか。求められるままに同じデザインを繰り返したり。

茂木:ずっとデザイン一辺倒ではないので大丈夫です。大変な時もあれば楽しい時もありますね。

デザイン室で求められる人物像とは

____そんなところで新人の増山さんですが、2022年入社ですよね?出身はやはりデザイン系なのでしょうか?

増山:デザインの専門学校ですね。デジタルデザインという分野でプロダクトとデジタルが選べたんですよね。私はプロダクトを選ばなかったので、茂木さんとは真逆なんですよ。

____面接みたいな質問をしてしまいますが、なぜヨシノ自動車を志望したんですか。

増山:もともと就職しようと思っていなかったんですよ。「デザインはしたい」と思っていたのですが人に何か言われることも嫌だし、命令されるのも嫌いなんです。だったら苦しい思いをしてもいいから「自分一人でやろう」と思っていたんですが、世の中そうはいかないんですよね(笑)。

____一同爆笑

増山:「これは1回就職しないといけないな」と思って、たまたま通っていた学校とヨシノ自動車が提携していたので、就活の時期に話が来たんです。茂木さんと経理の方が会社説明を行っていました。「トラックの会社で」という説明を受けたのですが、その時はなるほどぐらいの気持ちで「自分は全然興味がないぞ」と思っていたんです。

茂木:分かるよ(笑)。

増山:とはいえ卒業間近になってきたので、就職が決まってなくて「本当にやばいぞ」と。「じゃあ入ってみるか」と。

____あははは。「飛び込んでみるか」ぐらいの感じだったんですね。

増山:「一回(会社に)行ってみる」から今に繋がっている感じですね。

____採用する側としては茂木さんが増山さんの採用を決めたような感じですよね。どんなところが決め手になったんでしょうか。

茂木: この会社にはアーティスト精神が強すぎると「合わないな」とゆめちん(増山)に会う前から思っていたので、採用する人材は「そういう人材はだめだな」と思っていたんです。会社はやはり稼がなければいけないところなので、現実的なことを考えている人材が「いいな」と思っていたんですね。それが一番です。

____こういうと聞こえが悪いですけど、ちょっと打算的なぐらいの方がいいということですね。

茂木: 私は人を見る目があるという訳ではないですけど、第一印象で合う人と合わない人が分かっちゃうんです。ゆめちんに会った時には嫌な感じが全くなかったので、「この子なら大丈夫かな」と思ったんですよね。

____その辺の合う合わないは増山さんにもあったんですか。「うまくやれそうだな」みたいな。

増山:私は人間だから合う合わないはあったとしても、「お互い合ってくるようにすればいいかな」って思ってました。とりあえず私はこの会社に入ることが第1条件だったんです。私はとにかく「こういう人間ですから」って、そういう感じで入ってみようと思っていました。

____やっぱりデザインが好きなんですか?

増山:今ちょっと引き出しが少ないんで、苦しいところはあるんですけど。

____デザイン室でどんな仕事をしているんですか。

増山:それこそ広告物だったりWeb のバナーだったり、イベントのグッズだったりそういうデザインです。

____今後はトラックのデザインだったり、ロゴのデザインだったりをしていくって感じですね。

増山:「していけたらいいな」と思いますね。

____仕事に関しては上司の茂木さんを見ていると思うんですけど、増山さんから見て茂木さんの仕事はどう見えますか。

増山: 何て言うんでしょう。デザインの仕事って営業さんの仕事みたいに数字で出にくいですよね。その意味では分かりにくいんだけど絶対に自分には思いつかないことを思いついたり、画力なんかは圧倒的に茂木さんにはあるので、そういうところは(驚きのあまり)「うわ」って思っちゃいますね。「うわー」ってなっちゃうんですよ。

____ちなみに入社して半年、気分は上がったり下がったり大変な時期だと思いますがヨシノ自動車は楽しいですか。

増山:楽しいですね。いい感じですね。

会社が守るハラスメントの境界線と現実への耐性について

____ヨシノ自動車は大丈夫だと思うけれど、セクハラとかパワハラとか何かあったら社長に相談してくださいね(笑)。

中西: 最近はセクハラに限らずですけど、こういうことも受け方次第によっては「パワハラになるんだ」って、その価値観の相違は感じるんですよね。それは社内だけじゃなくて社外だったり、社会のいろんな方向で起こっている気がするんですよね。でもそこでそういったハラスメント認定する若い世代の価値観だったりをすべて受け入れたりすると、組織としてはうまくいかなくなるし、ハラスメントにならないように社内で共通理解したとしても、社外はそうじゃないですよね。学生から社会に出た時に感じるギャップと一緒で、正論で世の中は成り立たないこととか、やっぱりそれまでは親が守ってくれていたり学校の先生が守ってくれていたりすることが分かる。茂木がいっていたように「大人が守ってくれていた世界」とは現実が違うことが分かる。

____たしかにそうですね。

中西:ヨシノ自動車は守るけど「違う会社に行けば守ってくれないよ」ということもふくめて、ほどよく現実を知ってもらうことも大事だと思っているんです。自分が壊れない程度にはね。個人的な感覚でも「そこは必要だな」と思うんですよね。今は逆にコンプライアンスが厳しくなって表向きはそういうことができなくなっていますが、個々の人間の悪い部分を見せないで部下に接するからコミュニケーションとしては「なかなか難しいな」と感じることもあります。

デザインによる創造力が会社を変え始めた転換期

____たしかに腹を割った付き合いというようなコミュニケーションが、若い世代には受け入れられないという話も聞きます。確実に時代は変わっていますね。それで思ったんですが、デザイン室が二人とも女性であるということもありますし、仕事の内容もゼロから何かを創り出す仕事ですよね。そんなデザイン室が社内を変える雰囲気って持っていたりするのでしょうか。

中西: 後付けですけど、そういう雰囲気を期待しているんです。ヨシノ自動車の事業はあくまでも販売会社です。その販売している商材は他メーカーの商材を仕入れして、売っているだけだから、そこに「どう付加価値をつけようか」というところが事業の肝です。今まではそれが販売の手段でした。例えば保証を付けますとか、リースの枠をつけますとか、それが付加価値だったけれど、今は商品自体の価値をどう上げていくかというところで、一つの手段としてデザインが会社の中で台頭してきているわけです。それは同じ事業といっても業態が変わってきてますよね。その力はいずれ価値として認められると思うんです。今まさにその転換期ですよね。それまでオプションだったものが、デザインがどれだけの価値を生んでいるとか、それに対価が具体的にどれぐらい支払われるものなのか、ということに気づき始めてるんですよね。

____それで社内の認識が変わりつつある。その意味ではすでになくてはならない部署になっていますよね。

中西:だからこそ、その先が以前に鍵人訪問記で話させていただいたような、木更津の構想につながるわけですよ。あそこのイメージが「ラボのような場所になればいい」と希望をこめている。その意味で実現するためにはハードも大事だと思うんです。

____「物を買ってきて販売する」というのはヨシノ自動車がやってきた、言えば商売のド本道なわけです。ところがデザイン室の仕事や貢献というのはデザインであって、増山さんが言ったように数値化しにくいものなんですよね。けれどもそこを数値化だけではない評価を会社自体が出来るようになるとするならば、ヨシノ自動車という会社もだいぶ変わってきますよね。

中西:そう思います。会社のレベルとしても上がると思います。営業等の売り上げだとか、利益だとか、数値だとか以外の評価軸を持てるということは。例えば仕事の時間の使い方もそうなんですよ。僕がやっていたエンジニアの仕事でも実際に取り扱ってる商品の商品開発だとか具体的にバージョンアップをするとか、実際的な仕事しか僕はしてこなかったけれど、その上の仕事として要素研究という仕事がありました。彼らは研究第1グループというような肩書をもっていて在籍しているのは工学博士とかです。博士号をとってる人たちが、何をやってるのかと言うとひたすら他社の製品で、自社の商品とはまったく違う実験や研究なんかをやっているんです。それを積極的に許容できる会社なんですよね。

数値に頼らない価値観をもつことで企業価値はいっそう高くなる

____自社の商品ではない実験や、それにともなう失敗も許容できる会社の器ということですね。自社の商品だけではなく、他領域の業界にも響くことをするということはそういうことかも知れませんし、デザインはその可能性がありますよね。

中西:そんな数字じゃない仕事の価値を全社員が、すべてのお客様が、ひいては世の中が「評価できるようになればいい」と思うんだけど、そのためには「まず数字」という矛盾した難しさはありますよね。その価値が分からない人たちのために、分かってもらうために数量や数値で裏付けるしかない。だから本来はデザイン室がやるべきことだったり、やりたいことだったりとは違うかもしれないけれど、イベントで物販をしたり周辺の活動を踏まえて進めていく他ないかなと思いますね。いつか数値ではない評価をみんなでしてくれたらいい。そういう風に会社を持って行きたい。それが企業価値だと思うんですよね。

____会社内での浸透を受けて、将来的にはデザイン室の仕事も多様化させ人員を増やしていきたい。そのひとつとして木更津がきっかけになりそうだということですよね。

中西:木更津はまず収益を生む事業をする場所で、そこからスタートしなければいけないので整備だったり架装だったり、その場所で収益を上げることは鉄則です。ただそれだけの場所で終わらせるのではなくて、ファストエレファントでいったらトラックの架装が好きなお客さんが集まる場所にしたいし、和気あいあいとできるイベントの場所にもしていきたいです。同時に新しいカスタムを発信できるような場にもしていきたいですね。セノプロさんだったり、カスタムの独自展開しているところは他にもあるけれど、割とこの業界の面白いところとしてはライバルなんだけれども、お互い接点があって切磋琢磨しています。それって「すごくいい環境だな」と思っていて、今後ともその横展開を増やして行きたいんです。外から見るとライバルなんだけど、なぜか木更津に集まってるみたいな(笑)。そうやって大きな価値を生むスペースにしていきたいですよね。それだって売上や数値だけでは測れないものです。その場があること自体が企業の価値ですよね。

____その意味では、すでにファストエレファントはユーロカスタムの世界の中でも、ヨシノ自動車デザイン室のオリジナリティが際立つブランドになってきてますよね。

中西:片方で本音を言いますけど、やせ我慢もあるわけですよ。本来だったら商売的にもっと現在のトラックを乗っているドライバーさんやオーナーさんに気に入られるような仕様だったりデザインを提案して行った方が売り上げは上がるんです。でも我々はそこが本業じゃないぶん、やせ我慢して「自分たちが造りたいトラックを造りたい」と考えています。FEのオリジナルにこだわりたいんです。「ボルボ以外はやらない」っていう。それがなければとっくに国産をカスタムしてFEマークをつけていたと思います。

____そうですね。

中西:せっかくボルボトラックのカスタムラインとして「メイド・イン・ジャパンのものを作り上げたい」と、4年前の立ち上げのコンセプトをかたくなに守り続けているわけです。その将来像としては FE のオリジナルパーツだったり、運営していくヨシノ自動車も踏まえて、ボルボという世界規模の商材を扱うわけだから、トムスのようなメーカー系ワークスとして認められたいところはあるわけです。ハノーバーのトラックショーにファストエレファントとしてブース出展できるような形にしていきたいわけです。

理想の将来像とそこにいたる道のり

____そういうことですよね。そんな中西社長の思いを受けて、お二人は今後どんなデザインをしていきたいでしょうか。

茂木:社長と言っていることが似ているんですけれど、ファストエレファントがやっている路線は変えずに自分たちのブランドとしてもっと磨きをかけていきたいです。それが一つと、個人的には後輩ができたということもあるし、より認めてもらえるような場所にしていきたいんです。人材をまとめるようなスキルも付けていきたいですね。もう一つは最近思った事なんですが先日、ハノーバーに行ってみて言葉の壁を感じました。海外の人達はとてもフレンドリーで、FE のロゴを入れたマーカーランプを作ってもらうことになったんですが、そういうチャンスが海外に出れば出るほどあることに気づきました。今までだと「日本でどこかできるところがないかな」という枠で考えていたのですが、海外に広げれば「こんなに出来るところはあるんだ」って驚いたんです。だから英語の勉強をしないといけないです。まだ何も始めてないんですけど(笑)。

____なるほど。あんなデザインがやりたい、こんなデザインがやりたいと言うことより、より組織としてマネージメントしていく方向に茂木さんのモチベーションは向かいつつあるんですね。

茂木: 自分のデザインのスキルというのは、磨こうと思えばいくらでも磨けるものだと思っています。それは個人でやって、もっとすごいファストエレファントにするためには「どうしようか」というところを考えていきたいですね。

____わかりました。では増山さんはどうでしょう。

増山:私は社長や茂木さんが歩んできた、ヨシノ自動車の中での歩みというのが分からないし、トラックのことも全然分からないんです。でも分からないからこその22歳の女の子が考えることが「どこかでいいじゃん」って役に立ってくれればと思っているし、誰かに拾ってもらえるようなデザイナーになりたいです。前には茂木さんがいるし、その背中を追っかけて「待ってくれよー」と一生懸命追いかけている最中です。でも同じ道を歩もうとするのは違うと思っていて、同じ人が二人いても仕方がないので、茂木さんの背中は見ているけれど私は一個ずれたところをデザインできるように、今はとにかく引き出しを増やしたいですね。頑張ります。

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