株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第76回

極東開発株式会社 特装事業部 営業本部長 高濱晋一様

極東開発株式会社 特装事業部 営業本部長 高濱晋一様

「“製缶道場”ここにあり!激動の時代を生きる国内特装業界の雄はどこへ向かうのか!?」

今回はトラック業界で知らない人はいない、日本の特装業界をけん引する巨大企業である極東開発株式会社さんを訪問しました。ダンプ車やミキサー車、タンクローリーにごみ収集車と日本を代表する特装車メーカーですが、「環境事業」や「パーキング事業」といったあまり世の中には知られていない顔をももつ同社。今回は特装事業部の営業本部長であり、執行役員でもある高濱晋一さんに特装業界の現在と将来、そして海外展開についても伺いました。また横浜工場の見学レポートもあります。業界関係者必見の内容です。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

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高濱晋一(たかはましんいち)様
1961年生まれ。佐賀県出身。1991年 極東開発工業株式会社入社、2011年 九州支店長就任、2016年 株式会社FE−ONE代表取締役社長就任、2018年 執行役員就任(現任)、2019年 特装事業部 営業本部長就任。現在に至る。

高度経済成長期とともに成長した極東開発工業

___まず最初に中西社長に伺います。トラック業界において極東開発工業さんは、どんなボディメーカーなんでしょうか。

中西: これは私の個人的な印象になりますが、極東開発さんはボディメーカーだけではない立ち位置のボディメーカーなんです。新明和さんも含めて、他のボディメーカーさんはあくまでもボディメーカーに特化したボディメーカーさんです。極東開発さんは他にも異なる事業をもっている上でトラックの特装事業があります。ですから我々が取引させていただいているメーカーさんの中では、ちょっと立ち位置が変わっていると思います。それとボディメーカーとして取り扱っている特装が特殊で、よく言えば「競合が少ない」と思いますし、どの商品にしても競合会社は1つか2つというところだと思います。ニッチではありますが1つの事業体になるぐらいのマーケットはありますので、ビジネス的に見ると「いいところを攻めているな」と感心させられます(笑)。

高濱:ありがとうございます。

中西:ポイントは「ニッチすぎない」というところでしょう。

___ではそんな極東開発工業さんの特装事業の始まりについてお伺いしましょう。もともとパワーゲートから会社が始まったのでしょうか。

高濱:いや、もともとは進駐軍の自動車の整備事業から始まりました。1955年の6月に横浜市で、極東機械工業株式会社という会社が始まりました。1957年に兵庫県の西宮に会社を移転します。その時点で現在の極東開発工業という会社名に変わりました。さらにちょっと飛びますが、今年の3月に大阪の淀屋橋の方に本社を移転しました。

___そうだったんですね。

高濱:大阪に移転したのはいろんな事情がありますが、日本の西の経済の中心であるということもありますし、人材確保が難しくなってきている時代の中で、「求人の拠点もやはり大阪にあった方がいいだろう」ということになりました。ただ営業拠点は引き続き継続していく仕事の関係上、尼崎の方に移転しています。

___なるほど。この2023年で極東開発工業さんには新たな動きがあった、ということですね。

高濱: そうですね。ダンプやタンクローリーを製造するのがスタートであって、高度経済成長期にたとえばパワーゲートであれば普及しはじめていた自動販売機の積み下ろしに、 使用することから製作されました。

___社史を確認させていただいたところ、パワーゲート、3転ダンプ、粉粒体運搬車などほぼ1年おきに新製品が発売されていました。事業展開として、ものすごくスピーディーなのでびっくりしたんですよね。

高濱: 例えばバラセメント車にしても、コンクリートポンプ車にしても、それまで人が一輪車で材料を運んで、生コンを練って運んでいました。そもそも効率化しないと需要に追いつかなかったわけです。その発想なんです。

___なるほど。高度経済成長期のスピード感とそのままリンクしたんですね。

高濱:その通りです。日本の成長期に会社のスピードが合っていたんでしょう。

積載が10トンを超えるHARDOX(ハードックス)ダンプ

___それからジェットパックだったり、コンクリートポンプ車だったりを継続的に展開されていきます。現在、ダンプやフックロール、フラトップなどは横浜工場で造られているものですよね。是非、極東開発工業さんならではの独自の技術を教えてください。

高濱:横浜工場の主力商品はダンプです。最近でいうと人気なのがHARDOX(ハードックス)ダンプです。今までのダンプというのは厚い鉄板を使って強くて、耐久性を売りにしたダンプが主流でした。そこでデザインコンセプトを“剛から柔へ”と転換を図りまして、時代に合うようなソフトなイメージのダンプを作ってみました。衝撃をボディ全体で受け止めるような構造に変えて、なおかつ軽量化を図りました。それでいて積載量も確保できるよう開発されたのがHARDOXなんです。これもまた先ほどの高度経済成長期の話じゃないですが、時代の流れによって制作されたものですね。

リヤダンプ(HARDOX仕様) ©︎極東開発工業

 

___HARDOXの車体はヨシノ自動車でも販売していますよね。

富樫営業所長:まさしく 現在 10台をご発注いただきました。積載量の実測値は上がる一方で、今回は10トン100kgというすごい数値が上がりました。通常の大型ダンプですと8トン500kgぐらいなんですが、我々も努力をさせていただいた結果、素晴らしい数値を記録することができました。

___それはすごいですね! 積載量が10トンを超える大型ダンプというのは初めて聞きました。単車のダンプの積載量は8トンぐらいが普通だと思っていましたので。

中西: ダンプも用途によって違いますが、通常はそれぐらいですよね。色んな補器類がつくので、どうしてもそれぐらいにはなってしまいます。

富樫営業所長:これは規格外の積載量だと言えます。

___それはもともと仕様として極東開発工業さんにあったわけではなくて、ヨシノ自動車との打ち合わせの中で、その積載が可能になったということでしょうか。

富樫営業所長:その通りですね。

中西:担当の方から提案を受けながら、シャーシ(トラック)を決めたのですが、なるべく 積載を多く取れるようなシャーシ選定をしました。仕様もそれに合わせて考えました。

軽量化を常に求められるボディメーカーのジレンマ

___HARDOXは軽量かつ耐久性に優れた素材ですので、積載が10トン以上とれるのは分かるのですが、やはり積載重量の必要性というのはあったわけですね。

中西:ここ10年ぐらいずっと積載に関する厳しい規制がありました。どうしても定量しか積めません。これまで 8トンだったのが、もう2トン増やせれば1回の単価が変わってきます。2024年問題もかんがみると、「時間で稼ぐ」という時代はもう終わりに近づいていると言えるでしょう。そうなれば一度でどれだけ運べるか、それに限らず、そもそも生産性を上げるということは大事なことです。本来だったらこの10年でどんどん排ガス規制が厳しくなっていって、マフラーが大きくなり色んな補器類がついて自重はどんどん重くなる一方なんです。ボディメーカーさんからすると、その開発は「とにかく苦しいだろう」と思います。お客さんからは常に「積載をもっと取れないか」とリクエストされるわけですから。

___本当にボディメーカーさんは板挟みですよね。

高濱:規制が厳しくなって、それ以前の過積載はドライバーさんの自己責任でしたが、荷主である大手ゼネコンであったり、積載させる側の責任が問われるようになりました。だからこそ「定量積載で積みなさい」という風潮になり、それでなければ仕事がもらえなくなりました。やはり積むお客様からすると500kgでも100kgでもいいから、「より多く積めるトラックが欲しい」という要望になっていきます。

___そんなHARDOXが誕生した経緯があれば教えてください。

高濱: 我々もお客さんと仕様を考えるにあたり、建設業界は「強い」というイメージを大事にしていて、ダンプにしても恰好よく、強くという見栄えがすごく大事なんです。最近ではレンタル会社の建機の方でも、水色やピンクのユンボなんかが使用されるようになりました。明らかにカラフルでソフトなイメージの建機が増えてきているということもあって、我々もその時代に合わせていかなければいけない。我々には「技術とセンスのハーモニー 」という言葉があるんですが、これまで通りであれば「それに合わないな」ということなんです。それで技術部門の方が実現できる素材を探していたようで、HARDOXを使うことによって薄く軽く柔らかいボディでも「強度を出せる」というところに行き着いたんですね。

主流になりつつある鋼材としてのHARDOX

___ここでおさらいですが、もともとHARDOXは軽くて強度が出せて錆びにくいスウェーデン鋼を原材料にしていますよね。さらに加工したのがHARDOXですよね。

高濱: その通りですね。

___HARDOXは 極東開発さんが専売特許を持っている訳ではないですよね。

高濱:そうではないですね。他でもやってなくはないと思うのですが、我々が一番最初に目をつけた素材であることは間違いないと思います。

中西:最近はフックロールの箱なんかでもHARDOXが増えましたよね。

富樫営業所長:多くなりましたね。

___現在のダンプではHARDOXが主流なのでしょうか。

富樫営業所長:使用するにあたって、いろんな鋼材があります。ウェルハード鋼やヘルテン鋼だったりステンレスもありますし、用途によって千差万別なんです。HARDOXは半分とまではいかないかもしれませんが、高強度部材の利用としては増えていますね。逆に言うと「一般鋼を使うトラックは少なくなってきたな」という印象なんです。

___ちなみにHARDOXのダンプというのは一般鋼のダンプに比べてどれぐらい高いんでしょうか。

富樫営業所長:10トンダンプの床板だけで生鉄からHARDOXに変えると定価で50万円ぐらい高くなるイメージでしょうか。前壁、横、後ろとやるとその倍の100万円ぐらいはかかってしまいますね。

高濱:やはり強度的にもHARDOXは高いですし、耐久性や耐摩擦という意味でも長持ちします。これまで5年で床板を張り替えていたのが、7年、10年と持つわけです。長寿命という点もすごくメリットにはなってくると思います。

ほぼダントツ人気のフラトップ

___了解しました。横浜工場で生産されているボデースライド式1台積車両運搬車のフラトップや脱着ボデー車のフックロールについても教えていただけますか。

高濱:フラトップの場合は乗用車も含めて、レーシングカーなどの一般の積載車では運べない車も運べます。フェラーリのような車高の低い車からレーシングカーのような大きなエアロキットがついたような乗用車を乗せたいという時に、床面が下まで降りれば問題ない。それが始まりで、日本で初めて極東開発が、床面が地上まで降りるキャリアカーを開発しました。フラトップに関しては車載車=フラトップと言われるような状況に、おかげさまでなりつつあります。

中西:フラトップはダントツの人気じゃないでしょうか。

フラトップZeroII ©︎極東開発工業

___そうなんですね。

中西:僕がこの業界に入ったのは2003年ですが、その数年後にデリバリーされたんです。当時は床面が地面まで降りる車載車というのはフラトップしかなかったので、人気がしばらく続いたという経緯もあるし、時代を共にするようにディーラーさんから出る車でさえエアロキットがついてるような車が当たり前になってきていたので、そういった意味ではニーズはあるんですよね。

___もはやニーズとしてはウインチで引っ張り上げるようなタイプではなくて、地面にそのまま乗せるような形なんですかね。

中西:都市部はほぼほぼフラトップでしたね。

高濱:ライバル会社も乗り込み角度を、いかに低くするかという時代になってきていますね。我々は「車載車=フラトップ」というイメージは何年もかけて作っていきました。現在でもご指定していただける製品にはなったと自負しています。常に世の中が何を求めているかということを意識しながらやっていかないと、どこかが始めてから追いかけたのではうまく浸透していきません。そういう営業活動も含めて、サービスもそういったお客さんの情報を集められるような体制を作っているつもりではあります。

製缶におけるセンスと技術のハーモニーとは

___ちなみにボディメーカーさん同士というのは、一つの製品をとっても切磋琢磨しているライバル同士だと思うんですが、実際のところどんな温度感なのでしょうか。

高濱:僕らの感覚からすると「同じ業界の仲間」という意識がどこかでありますね。お互いに問題意識が一緒ですから、嬉しいことも苦しいことも同じだったりします。同じ体験をしているんです。広く言えば仲間意識も含めて、私もちょっと名前は言えませんがライバル会社さんに教えを乞うたり、何かの際には助けてもらったりしているのですべてが敵対関係にあるわけではないんです。もちろん、どこかで勝負にはなるんですけどね。

___そうですよね。きっと同じ「ものづくり」というところで共感しあってる部分はあるんだろうなと思っていました。

高濱:苦しみも同じ苦しみですからね。

___その意味で個人的に気になったのですが、貴社のロビーに「製缶道場」という言葉がありました。この言葉の意味について教えていただけますか。

高濱:鉄板を曲げたり、溶接してくっつけたりという作業が製缶に似ているからです。

___なるほど。タンクローリーは確かに缶詰に見えるかも知れませんね(笑)。

高濱:我々の会社では「センスと技術のハーモニー」という言葉を大事にしていて、見た目もすごく大事だと思っています。この横浜工場も外から見るとトラックの形をしているんですよ。今の世の中は機能性だけではなく、見た目もすごく大事だと思うんです。トラックや世の中に与えるイメージも含めて考えなければいけませんから。

___確かにどんな道具であれ、そのセンスは問われるところではありますよね。

中西: そうですね。この建物が竣工されたのもだいぶ昔ですよね。例えば 30年前にこの工場が建ったのだとすると革新的だったでしょうね。

高濱: 最初はすごく違和感が強かったんです(笑)。いま思えば話題性もあったし、何より お客さんに覚えていただくことができる。そういう意味ではセンスがあったのかもしれませんね。

___ちなみにヨシノ自動車と極東開発さんとのお付き合いというのは先代からなのでしょうか。

中西: 僕が入社した2003年からは、ずっと継続的にお付き合いさせていただいていますね。むしろ私がお付き合いさせていただいてる中では、最もお付き合いの長い特装メーカーさんの一つですね。

___それは 横浜工場があることも関係しているのでしょうか。

中西:元々はそうだったかもしれませんが、私が入った当時は極東開発さんの営業の方が 毎週弊社に来ていたんですよ(笑)。

高濱:その節はお邪魔しておりました(笑)。

中西:当時から弊社はレンタカーをやっておりましたし、先行発注で即納できる新車を造るという販売モデルはやっていて、現在の会長と当時の極東さんの営業担当者の方が打ち合わせをしていました。じゃあフックロール何台、フラトップ何台という感じですね。定期的にずっと入れるというようなことでしたね。

ヨシノ自動車はいかにフックロールを販売したか

___それはある程度、仕様を決めた完成車的なスキームで回していたんでしょうか。

中西:そうですね。今でこそ完成車というのは当たり前になっていますが、当時はまだまだそういった概念はありませんでした。そういった意味では、弊社は先行して完成車のように人気のある、汎用性の高い仕様で製作していましたね。あとはプラス・オプションで仕様を加えていくイメージです。それを即応できる体制を作っていましたね。

高濱:我々にとっても、特にその営業にとってもヨシノ自動車さんはありがたいお客さんだったんです。営業は毎期々々、納期とノルマに追われますからね(笑)。「ここで10台見込めるぞ」となれば助かりますから。

中西:もちろんボディメーカーさんによってそれぞれ良さがあって、この車種はこっちがいいとかはあります。でも極東開発さんはどの製品もまんべんなく良さがあるんですよ。ただ 最初に着手した方が、マーケットそれ自体は大きくはないのでそのメーカーがトップシェアを取るんですよね。この業界の話ではないですが、かつてコピーすることを「ゼロックス」と呼んでいましたよね。それはゼロックスさんが世の中にコピー機を広めたからこそ、そう呼ばれていました。私が業界に入った当時、お客さんに「ユニックある?」って聞かれたんです。僕も聞かれた時に「ユニックはないですがタダノだったらあります」と答えて、「あるんでしょ?」って押し問答したぐらいだったんです(笑)。

___業界ではクレーンをユニックと呼びますからね(笑)。

中西: 例を挙げると、フックロールなんかがそうでした。やはり新明和さんのアームロールの方が認知度は高いんです。中古車市場は特にそちらが有名で、業界の中では「フックロールは売れにくい」という認識でした。弊社はそこに先行発注で仕入れて即納する体制を強化しました。運送会社さんというのは計画的に1年後に欲しいとか、半年後に欲しいというような導入計画を持っているお客さんはほぼいないんですよ。やっぱり今月、仕事が決まって来月からスタートとか1にも2にも大事なのは納期なんですよね。我々としてはそこを 「フックロールならすぐご用意できます」と言える。使ってしまえば「いいね」という話になるんですよ。そこには販売側の勝手な忖度があったりするんです。中古市場の相場によって優劣を決めるような価値判断をしていたんです。

大型フックロール ©︎極東開発工業

___ということは、ヨシノ自動車はフックロールが得意だったんですね。

中西:そうですよ。あくまでも当時の話ですが、同業の中ではダントツで販売していると思っています(笑)。

___なるほど。やはりフックロールだったりアームロールだったり、フック式脱着ボディのダンプってニーズが高まっているんでしょうか。

中西: ここ10年ぐらいのスパンで見てみると確実に拡大していますね。急激に、というわけではないと思いますが本当に拡がってきました。むしろダンプ市場の方が、その分だけ シュリンクしている印象はありますね。

高濱:使われるお客さんからするとゴミ箱を置いている感覚なんですね。そのゴミ箱をたまれば集めて回っているから、確かに効率がいいんですよね。

中西:そうですね。実際に一番効率がいいですね。ダンプに同じことをさせると、そのまま車両を置いておかなければいけませんからね。

極東開発工業の海外への挑戦

___極東開発さんはグローバル事業も手掛けられていて、インドのサトラック・エンジニアリングという会社を買収していますね。

高濱:これから東南アジアあたりが市場的に大きいということで、我々は早い段階で中国で 市場開拓をしようとしたり海外への挑戦は続けてきました。サトラックさんはインドの中でも我々と同じような老舗の特装メーカーとして知られています。製造販売もされているので我々は彼らの販路が欲しかった、サトラックさんは我々の技術が欲しかった。その利害が合致して「一緒にやっていきましょう」という話になりました。たとえ我々が中国に行きました、インドネシアに行きましたと言ったところで、販路は「どうやって作ればいいのか」というのが一番の課題になってきます。その意味では、サトラックさんはもうすでにインドでの地盤はできていたので、その点が我々としては魅力に感じられました。

___そういった展開の中で、製造拠点を海外に移すということもあるのでしょうか。

高濱:すでに中国の昆山に我々の工場があります。そこで製造自体はほとんどやっていないのですが、特装車を構成する部品製造工場として操業しています。その部品を横浜工場だったり、国内の工場で製造するために使用しています。後は東南アジア向けのミキサー車だったり、そういう特装もやってはいるんです。でもメインは部品製造ですね。

___やはり主たる組み立て工場の製造拠点は日本にあるんですね。

高濱:そうですね。製造品質を管理するというのが海外だと、なかなか難しいんです。

___サトラックと付随してボルボトラックとも取引できるという点も注目されていましたね。

高濱:ボルボさんとは以前も協業しているんです。ミトラ極東からのOEM供給としてお付き合いはありました。ボルボトラックは世界的なシェアを誇っているので、これからも一緒にやっていければと考えています。現在はダンプのOEM供給について折衝を重ねているところです。東南アジアといえばダンプだったり、ミキサーだったり、やはり建設系のトラックが必要とされている、と思います。

___中西社長に伺いたいのですが、やはり日本で販売されているボルボと東南アジアで販売される車両とは違うのでしょうか。

中西:仕様は多少違うのでしょうけど、そんなに大きな違いはないと思いますよ。

高濱:東南アジアは法規制がまったく違うので、日本でそのまま使用するというわけにはいかないですね。国内でボルボトラックに極東開発が特装を行うとすると、まずボルボジャパンさんを通してシャーシを提供していただかないと難しいですね。

まだまだシンプルな構造が好まれる東南アジア市場

___鍵人訪問記では常に問題意識として浮上してくるところなんですが、トラック業界は今後少子化によって、どんどん市場がシュリンクしていってしまいますね。極東開発さんでは、将来に向けてどういった施策を考えていらっしゃるのでしょうか。

高濱: 現段階であまり話すことはできないのですが、国内の市場縮小もあり、オーストラリアなどへの新しい市場に対してアプローチは行っています。ただライバル会社もありますし、クリアしなければならない法規制もあります。その調整がその国その国によって違うので、なかなか「日本仕様のものをそのまま海外に持っていくのは難しいかな」と思います。

___単純に「日本の特装技術は素晴らしいな」というイメージがあるのですが、実際 のところ海外に向けての競争力という意味ではどうなんでしょうか。

高濱:これからは AIやIoT 技術がより進んでいくでしょう。我々も、AIによるごみ収集車向けの人検知システムである「KIES」やIoTを利用した管理システムである「K-DASS」を開発し展開しています。とはいえ、まだまだ東南アジアの方では誰もが修理を行えるような、建機が好まれています。強くて壊れない。壊れたら壊れたで修理は簡単。あくまでも人の手で直せるような建機がまだまだ伸びそうですね。日本は安全面を考慮した上で効率化をしなければいけなかったり、トラックに異常があればトラックそれ自体が察知して教えてくれるような機能だったり、必要とされる技術がより高度で、ちょっと海外とは事情が違っていると思いますね。

___なるほど。このお話はウガンダでもトラックを販売されているヨシノ自動車としても共感できる部分は多いんじゃないでしょうか。

中西: そうですね。弊社は自社の商品というよりも日本で使われた旧いトラックをアフリカに提供しています。旧いトラックを提供している理由というのはウガンダも事情は東南アジアと一緒で、故障があれば自分たちで直せるトラックじゃないと売れないんですよ。現在のコモンレール式燃料噴射器 だったりEGR(排気ガス再循環)バルブとかがついているトラックは専用の工具や周辺機器がないと修理できないんです。ですから、シンプルにインジェクションだけのトラックが輸出されますね(笑)。

___なるほど。トラックを販売するにしてもご当地の整備事情が大きく関わってくるということですね。

中西: それプラス、お金を払ってでも環境規制を行うべきだという価値観が、この数十年で作り上げられているので、日本はそういう環境性能の高いトラックが求められます。でも 一部の東南アジアの国々やアフリカでは、生活インフラ自体がまだ整っていなかったりするのと経済力もそこまで高くはないので、シンプルな道具にニーズがあるのかなと思いますね。

他事業部とのシナジーについて

___極東開発さんは特装事業の他に環境事業とパーキング事業がありますね。3つの事業を持つことによっての極東開発さんならではの強みについて教えてください。売上規模でいえば特装事業がやはり大きいのでしょうか。

高濱: メインはやはり特装事業ですね。環境事業はゴミ処理施設の建設、それから運営も行っていますので特装事業部からみれば、入札の際に車両も想定できますし、周辺機器もあります。そういった横のつながりは「ありがたいな」と思いますね。

___なるほど。それはシナジー効果がありますね。環境事業の拠点はどれぐらいあるんでしょうか。

高濱:いつも増えたり減ったりしているので現時点で何拠点とは言い難いのですが、2022年の3月時点で全国208 拠点あります。

___施設というと焼却炉やプラントなんかも極東開発さんで製造されるんですか。

高濱:そうですね。最近では沖縄でも米軍による汚染土の問題なんかがあって、処理の問題もふくめて非常に大きな社会的責任をもった事業だと思っています。

___確かにそうですね。環境意識の高まりとともに従来では考えられなかった問題が浮上してきているのが、この分野だと思います。パーキング事業はどういった名前で運営されているんでしょうか。

高濱: P ゾーンという名前で時間貸し駐車場を運営しています。中部や名古屋方面では多いみたいですね。それに加えて我々は家庭用の2台積みの駐車装置なども扱っているんです。取り扱いは国産自動車メーカーさんだったり、新車を販売する時にご協力いただいていたりもします。たとえば車両の取引のあるお客さんが、新社屋を建てられた際のパーキング 設備を弊社が手がけたりもしています。いろんな意味で、車に関わることで広がっていく事業だと思います。

取引先は「調達」の力が求められる

___では今回のクライマックスと言えるような話題に入りたいと思います。今後のトラック業界の課題について話したいのですが、まずはビッグニュースである日野自動車と三菱ふそうの合併についてお伺いしたいと思います。中西社長からお伺いしたいですね。

中西: 記者会見は全部見ました。そこで得られた印象としては昨日、今日の話ではなくて、1年から2年をかけて「協議していたんだろうな」という印象でした。あそこまでスケジュールを決めて調整できるのは、昨日、今日の話ではないですよ。トヨタとダイムラーが 対等な立場で合弁会社を作ってやっていくというのは、相応の調整が必要な「ビッグイベントなんだ」という印象でした。

___端緒はやはり日野の不正問題だったんでしょうか。

中西:それも大きなきっかけのひとつではありますが、それ以前になんとなく兆候はあったと思うんですよね。2年前の日野の不正が発覚した際に開かれた記者会見でも、これほど長い間、2001年から完全子会社化して人材も資本も投入してきたのに、というトヨタ側の思いは感じられました。僕はその会見を見ていて 「日野は最悪なケースの場合、なくなってしまうかもしれないな」と思ったんですよね。さすがに日野のもつマーケットと規模感を考えてなくすということはないとしても相応の処分は下るのではないか、とも。

___そこにダイムラーからの提案があったのかも知れないですよね。報道にあるようにトヨタ自動車のもつ水素技術で協業したかったこともあるのかも知れない。

中西:そうですね。グローバルな考え方から言うと利害が一致したのかもしれませんね。その場合はダイムラーとしては「じゃあ引き受けようか」ということなんだと思います。

___日野自動車もそうですが、今後の次世代運転技術やパワートレインの開発といったところで開発を単独メーカーではやっていけないというのが見えていますよね。そのための合弁であって、トラックメーカーはそうだとすると特装業界はどんな対応が求められるのでしょうか。

高濱:我々としてもボルボさんしかりダイムラーさんしかり、国産メーカーだけではなく 世界的規模のメーカーの車両の特装を、手がけられるようにしていかなければいけないでしょう。装置がすべて右左逆だったり、検討していかなければならない点は多々あるので、対応にあたってはスピーディーさが求められると思います。

___トラックが変わると上物の仕様もやっぱり変わってくるんですね。

高濱:変わってきますね。例えばシャーシの「この部分に穴を開けてはいけませんよ」というような場所がメーカーによって全く違うので、それぞれに合った特装が求められます。今回の合併で当面は我々としてやらなければいけない課題は特にないと思います。ただ日野さんもふそうさんもそれぞれ独立したメーカーとしてやっていくようなので、注目していかなければいけないのは、開発の部分と調達の部分というところ。特に調達の部分はトヨタさんもダイムラーさんもコスト意識が高いんです。合弁会社もそれに習ってやっていくのだとすれば、我々も確実に価格交渉の俎上に上がってくるので、その点だけはすぐにでも着手しなければいけないところですね。

___調達が鍵なんですね。

高濱:トヨタさんにしてもダイムラーさんにしても調達に関してはものすごい影響力がありますので、日野さんにしても「これまで通り」というわけにはいかないでしょう。我々も 部品ひとつひとつの単価まで今後は問われる時代になるのかな、と思っています。

中西:そうかもしれませんね。トヨタさんのサプライヤーさんに対する原価管理はものすごく厳しいと聞いています。それは運送会社でさえ部品ひとつ運ぶトラックの減価償却費さえも問われると聞いています。そうやって全部コストを出すんですよね。

次世代のPTOとは。そして将来像は

___ちょっと話は本題から外れるのですが、ヨシノ自動車的には日野とふそうの合弁はどんな影響をもたらしますか。

中西:まだ大きな影響はありません。この1年、2年で出てくるとは思えないです。あくまでも現段階ではメーカー側の指針が発表されただけなので、いざディーラー再編となった時に影響が出てくる可能性はありますね。

___これが最後の質問になりますが、 極東開発さんの上物はほとんどPTO(エンジンから作業用動力をとる油圧装置)を使用します。これが今後、電動化するとなるとどういった影響があるでしょうか。

高濱: 今後のパワートレインがどうなっていくのかは、我々が決められないところなのですが、動力源を自前でつけるとなると重量の点でまったく成立しなくなってしまいます。現状のところ、それは弊社の課題でもあります。電動化するにしろ、バッテリーを大きくすればするほど積載量は取れなくなってしまいます。逆にコンパクトにすれば一度に100キロぐらいしか走れなくなってしまうかもしれません。そこをどうクリアしていくのか、それが難しいならばいっそ水素という選択肢もあるでしょう。

中西:これまでエンジンのトルクから取れていた動力が、モーターだけになると相当の電力を使いますよね。そのモーターも10トン単位の負荷に耐えらえるトルクが必要なわけですよ。

高濱:そこは極東開発だけではどうにもならないところが大きいんです。各メーカーさんとそれぞれクリアしていくしかないです。ただすでにその研究開発は共同でやっています。

中西:海外のダンプメーカーなどは動力が電力というメーカーさんもあったと思います。特にトレーラはヨーロッパの方が進んでいる気がして、今後は日本のボディメーカーさんも 海外との繋がりというのは大きくなっていくのかなと思います。以前取材した EU トレーラーズさんのように 欧州のトレーラを輸入して、それが国内で受け入れられ始めている実績もあります。海外メーカーが日本の市場に魅力を感じているのもありますよね。

___まさにそこでそういった海外メーカーが日本の市場に入ってきた時の極東開発さんの考え方だったり、スタンスを教えていただければと思います。

高濱: 海外メーカーが入ってくるのはどうしようもないことです。欧州だけではなく韓国から安い上物が入ってきたりするケースは現在でも実際にありますからね。極東開発の対抗策としては、65年間で培ってきた信頼だったり、サービスも含めて「選ばれるモノ作り」を全面に出していくしかないなと考えています。特にサービスに関してはお客さんが期待するよりさらに上のサービスを提供することによって、「極東開発から買えばここまでしてくれるんだ」と思っていただけるようにしたい。

___これまでの実績と信頼ですね。

高濱:そんな想像を超えるサービスというものを前面に出していくべきでしょうし、営業も同じようにお客さんが期待する以上の付加価値をプラスしていかなければいけないでしょう。日本でのお付き合いはまだまだ海外のようにドライではないと思っているので、そのお付き合いを「大事にしていきたいな」と思っています。その上で海外メーカーの優れた点は実際に研究しながら、追いつき追い越さなければいけないなと思っています。そういう意味での研究開発というのは現在でも進んでいます。

___特装業界における世界的なトレンドはどんどん取り入れていくということですね。

高濱:そうですね。良いところは取り入れていかないと発展していかないでしょうし、我々の主力商品のジェットパックにしても欧州からヒントをもらって開発した商品ですから。

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