株式会社ヨシノ自動車

トラック業界"鍵人"訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第110回

熱田自動車工業有限会社 代表取締役社長 蜂谷 雅人 様

熱田自動車工業有限会社
代表取締役社長
蜂谷 雅人 様

「港町で磨かれた架装の流儀。老舗架装会社が拓く、東北ユーロの可能性」

石巻の港町で、50年にわたり架装の仕事を積み重ねてきた熱田自動車工業有限会社様。二代目社長の蜂谷様は現場の中心に立ち、人が育ちにくい時代の中でも、自ら手を動かしながら会社を支えています。今回の「鍵人訪問記」では、そんな熱田自動車工業とファストエレファントの接点を入口に、地方でユーロトラックを成立させる難しさと可能性、石巻という土地ならではの架装需要、そして“整備”とは異なる“架装”という仕事の本質に迫りました。求められるのは資格ではなく、腕と経験、そして使い手の気持ちまで想像する力。他ではできない仕事をどう形にしていくのか。現場に立ち続ける経営者、輸入車の可能性を見つめる実務者、それぞれの言葉から、東北ユーロの輪郭が見えてきました。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

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蜂谷 雅人(はちや まさと)
熱田自動車工業有限会社 代表取締役社長。
1972年 宮城県栗原市生まれ。1995年に熱田自動車工業有限会社へ入社。1997年専務取締役就任。2019年9月代表取締役就任。現在は石巻市在住。

友善商事から始まった接点と、仕事としての最初の結びつき

ーーー最初に伺いたいのは、熱田自動車さんとファストエレファントの関係の始まりです。いまは自然なつながりに見えますが、最初は単なる紹介ではなく、かなり具体的な仕事から始まったわけですよね。

アルフレッド:きっかけは友善さんです。スライドカプラーを取り付けてくれたのですが、こちらの方でスライドカプラーを取り付けたボルボを登録したことがなかったので、僕が派遣されました。当時は販売店としての話も進んでいたので、その流れの中で熱田自動車さんをご紹介いただいて、一緒に作業することになりました。要するに、単なる紹介というより、登録や構造変更を含めた実作業の中でつながった関係なんです。

ーーーなるほど。つまり、最初から「輸入車の特殊な作業には誰が必要か」という話だったわけですね。ファッションとしてのカスタムではなく、実務運用まで含めた仕事。その意味で、最初の段階から熱田自動車さんの役割はかなり重大だったんですね。

アルフレッド:そうですね。特にスライドカプラーみたいな装備は、取り付ければ終わりじゃなくて、その後のフォローが大きいので、そこは重要でした。

最初の現場にあった緊張感と、そこで見えた相手の本気

ーーー最初の現場は、実際にはそれなりに緊張感があったと聞いてます(笑)。とくにアルフレッドさんのように、外から入って指示を出す立場だとやりにくさはありますよね。

アルフレッド:僕が偉そうに「こうしてください」と指示する感じで入ったので、その時は「なんだこいつ」みたいな視線を受けながら作業していました(笑)。その時は、まさか一緒に作業している相手が社長だとは思ってもみなかったんです(笑)。蜂谷社長が現場でガッツリ作業されていたので、最初は正直、戸惑いもありました。

ーーー蜂谷社長から見たアルフレッドさんの第一印象はいかがでしたか。見た目のインパクトと、実際に仕事をしてみた時の印象には差がありましたか。

蜂谷:見た目は外人ですけど、中身はめちゃくちゃ日本人だった、というのが第一印象ですね。エンジニアとしても、「面白い人間だな」と思いました。

ーーーその「中身がめちゃくちゃ日本人」というのは、段取りや配慮みたいなところですかね。

蜂谷:そうですね。そこは大きいと思います。

酒の席で関係が変わる。職人同士の距離の詰まり方

ーーー本当の意味で距離が縮まったのは、どのタイミングだったのでしょう。

アルフレッド:その日、一緒に食事することになって、小笠原ママ(友善商事社長)が食事の席を作ってくれたんです。そこで一緒に飲んで、やっと蜂谷さんからも声をかけてくれました。お酒を飲みながら話をしたことで打ち解けることができて、そこから関係が良くなっていきました。

ーーー一緒に汗をかいたあとに飲んで仲間になる的な(笑)。

アルフレッド:そうですね。まさにそんな感じでした。

穴を1ミリ広げる作業に、現場の本当の力量が出る

ーーー実際の作業の中で、とくに印象に残っている大変さはどこでしたか。トラックの仕事は、見た目以上に一つひとつの工程が重いですよね。

アルフレッド:穴開け作業ですね。大きい穴を1ミリ程度広げる作業だったんですが、キリがどんどんダメになっていくんです。穴も22カ所あって、蜂谷社長は穴を開けてはグラインダーでキリを研ぎ直して、また上に登って作業するということを朝からずっと繰り返していました。かなり大変な作業でしたね。

ーーー「1ミリ広げるだけ」と言うと簡単に聞こえますが、実際にはその1ミリがきついんでしょうね。精度は落とせないし、工具は消耗するし、作業者の体力も削られる。

中西:図面上は簡単に見えても、現場で合わせると一個ずつ手間が出るんですよね。

創業50年、二代目になっても社長が現場の中心にいる理由

ーーー熱田自動車さんの会社としての歴史についても伺いたいです。創業から50年というのは、地方の架装会社として相当な蓄積ですよね。

蜂谷:50年ぐらいになります。うちのおやじの代、つまり父親の代から始まっていて、私が2代目です。私に代替わりしたのは令和元年なので、そこからだいたい5年くらい経っています。

ーーー二代目になって5年。その響きだけ聞くと、体制が整って経営に軸足が移っていてもおかしくないですが、そう単純ではないという。

蜂谷:はい。結局、現場はずっと私が回してきたんです。ただ、やっぱり人も入ってこないし、育ってもいない。だから私もまだまだ現役でやらないといけない、という状態です。社長ではありますけど、実際には現場にも立ち続けています。

ーーーここはたぶん架装業の現実ですね。経営者であることと、職人であることを切り分けてしまうと仕事が回らない。

中西:しかも架装って、すぐ人が育つ仕事でもない。整備みたいに資格があって体系化されているものとは違って、現場で覚える部分が大きい。だから社長が抜けられないというのは、熱田さんだけの話じゃなくて、この業界全体の課題でもあると思います。

石巻という土地にある、働くトラックへの美意識

ーーー石巻のトラック事情についても聞かせてください。外から見ると港町ですが、実際にはかなり独特の文化があるそうですね。

蜂谷:石巻は結構特殊な街で、デコトラ文化も昔からありました。映画『トラック野郎』に出てきた牽引車が、実際には石巻の魚屋さんの車両だったんです。そういう意味でも、かなり特殊な地域ですね。

ーーーこれは興味深いですね。石巻か、八戸かというくらい、飾る運送会社が多いお土地柄です。石巻では、トラックが単なる運搬道具ではなく、港町で、魚屋さんや漁業に近い仕事があって、実用と見た目の両方にこだわる文化が育った、と。

蜂谷:そうですね。そういう土地柄ではあると思います。

ーーー一方で、日常の仕事としては、かなり堅実な案件が中心でもある。

蜂谷:普通の一般架装ですね。ディーラーさんから入ってくる仕事がほとんどメインです。うちはトラックの架装に特化していて、一般整備はやっていません。

整備は資格、架装は腕。制度化しきれない仕事の重み

ーーーここで改めて整理したいのですが、整備と架装は同じトラックの仕事でも、まったく別の世界なんですね。

中西:まったく別です。整備は国家資格を持っている人、ヨシノ自動車の場合は2級以上の人がやるのがメインです。一方で架装は、資格というものがあるわけではなくて、もう本当に腕次第、経験次第という世界です。だからこそ、職人としての技術と感覚が問われる分野ですね。

ーーー整備は制度の中にある仕事、架装は制度では測り切れない仕事、と言い換えてもいいかもしれませんね。

中西:そうですね。資格で線を引けないぶん、経験の差がそのまま仕事の差になります。

ーーーその延長でいうと、蜂谷社長が言う「センス」というのも、単なる感覚論ではなくて、商売として成立する着地点を見極める力なんでしょうね。

蜂谷:みんな、人と違う架装がしたいと思ってるんです。でも、あまりやりすぎると個性が強くなりすぎて、誰も見向きもしない架装になってしまう可能性もある。やっぱり「いいな」と周りにも思ってもらえる架装じゃないとダメなんです。その微妙なさじ加減が必要ですね。

ーーー「ちゃんと売れる個性」「ちゃんと受け入れられる違い」に落とし込むのが難しい。そこに架装屋のセンスがあるとも言えるかも。

アルフレッド:本当にそうです。僕たちの架装はかっこう良さを大事にしますが、まず「仕事に使えない」と意味がないんです。

地方でユーロトラックを広げるには、販売の先まで見ないといけない

ーーー石巻でのユーロトラックの需要については、どう見ていますか。興味を持つ人はいても、実際に広がるにはいくつか壁がありますよね。

蜂谷:スカニアは、地方だとディーラーさんがなくて、仙台での取り扱いになるので、なかなかこの辺では手を出しにくいですね。販売店はあるんですけど、販売だけで、整備までは触れないんです。

ーーー結局「売った後を誰が見るのか」という問題なんですよね。販売店があっても、整備まで一体で見られなければ、ユーザーは安心して入れられないですよね。

中西:その通りです。特に輸入車は、壊れた時の不安よりも、「何かあった時に誰が責任を持って見るのか」が大きいですよね。だから地域で広げていくには、車を売る人と、触れる人と、現場で納める人が全部つながっていないと難しいんです。

人が育たないという現実が、未来を左右する

ーーーその意味では、人材育成の問題は避けて通れませんね。

蜂谷:うちも人が育っていないですね。私がいないと仕事も間に合わなくなるし、とにかく手が足りない状況です。若いスタッフもいますが、やっぱりトラックが好きじゃないと入ってこないし、入っても続かない。そこは大きな課題です。

ーーートラック好きの若者がいるんですね。良いですね! 手仕事で、きつくて、覚えることも多い。そのぶん、一人前になる人材の価値はすごく高くなるんですね。

海の近くの仕事が求める、防錆とステンレスの精度

ーーー石巻特有の架装需要についても伺いたいです。やはり海に近いという条件は、かなり大きいのでしょうか。

蜂谷:海の近くなので、サビに関しては結構うるさくやります。塗装も錆びにくいものを使いますし、融雪剤も多いので、ステンレス関係の架装が多くなります。漁師さんが使うトラックなんかだと、純正のボディの鉄を全部取り払って、周りを全てステンレスにすることもあります。2トンクラスなどの4ナンバーサイズでもステンレスボディにしてしまいますね。

ーーー石巻ならではですね。見た目のためのステンレスではなく、まず環境に対抗するためにステンレスを使う。まぁ、本来の目的がそうなんですけどね(笑)。塩と水と融雪剤、この三つが重なる地域では、防錆そのものが商品価値になるわけですね。

蜂谷:そうですね。かなり重要です。

ーーーステンレス加工自体にも難しさがありますよね。

蜂谷:やっぱり磨きですね。ステンレスを使うなら、仕上がりをきれいにすることが重要になります。塗装してごまかすわけにもいかないし、ステンレスは傷も入りやすい。だから、いっそう丁寧な作業が求められますね。

アルフレッド:ステンレスって、ごまかしが効かない素材なんですよね。塗装なら隠せる部分も、ステンレスは最後の仕上がりに全部出る。だから、材料を使うだけじゃなくて、どう見せるかまで含めて技術になるんです。

工具箱まで自社で作る。その内製力が仕事の自由度を生む

ーーー工具箱などの製作も自社で行われると聞きました。ここは熱田自動車さんの強みの一つだと思います。

蜂谷:そうですね。うちでやっています。

アルフレッド:他の架装屋さんだと、工具箱は外注に出してるところもあるんですが、熱田さんでは全部完結できるので、助かります。そこはすごく大きいです。

ーーー特殊車両では、その場で寸法を見て、その場で微調整できることが価値になる。外注だと成立しない仕事も、内製なら成立することもある、ということですよね。設備面についてはいかがですか。

アルフレッド:最新の溶接機を持ってるから、「なんでも作れるじゃん」という印象です(笑)。その技術力もかなり高いと思っています。

東北はまだ手つかずの市場であり、先に動く意味が大きい

ーーー東北地方でのユーロトラック市場の可能性については、どう見ていますか。首都圏や関西とは違う伸び方をしそうです。

アルフレッド:東北って、なかなか誰も手をつけてないというか、だから汚されてないというか(笑)。「今が買いの株」みたいな感じで、攻めればどんどん結果が出そうなエリアだと思うんです。石巻でボルボが走り出したらインパクトがありますし、仙台から北はまだまだ手つかずの市場だと思いますね。

ーーーつまり固まりきっていないからこそ、最初の成功事例の意味が大きいということですね。一台、二台の見え方が、その地域での市場の空気自体を変える可能性だってある。

中西:そうですね。結局、最初に「この地域でもちゃんと走る」「ちゃんと成り立つ」という事例が出ると、人の見方は変わると思います。最初の事例づくりはすごく大事だと思います。

港の仕事と欧州トラックの適性について

ーーー実際にボルボトラックに乗る顧客層は、どういった方々が中心になってくるのでしょうか。

蜂谷:台車は持ってないんですが、海運とかフェリーの船下ろしのドレージをやられている方ですね。石巻港から上がってくる貨物を扱う、フリーのヘッドを持つお客さんが中心です。

ーーー石巻らしく、やはり港の仕事が中心にある。ただ、その使い方が必ずしもボルボに最適とは限らない、という話もありましたね。

中西:実は海コンみたいな使い方って、欧州車にはあまり合ってないんですよ。アイドリングが多いし、待機時間も長いし、ストップアンドゴーも多いので、どうしても良くない。本当に向いているのは、長距離運行で月に1万キロ以上走るような使い方です。そういう方が、むしろ壊れにくいんです。

ーーーここは非常に重要な知見ですね。輸入車だから何でも向いているわけではない。車両の思想に合う使い方があって、それに合った現場でこそ本領を発揮する。

中西:そういうことです。だから売る側も、「誰にでも合う」と無責任には言えないんですよ。どんな仕事をしている人かまで見て提案しないと、とは思います。

目指すのは、「熱田じゃなきゃダメだ」と言われる仕事

ーーー最後に、今後の架装業への取り組みについて教えてください。熱田自動車さんがこれからどんな会社でありたいか、その方向性を伺いたいです。

蜂谷:やっぱり、他ではできない、「熱田自動車じゃなきゃダメだ」と言ってくれるお客さんを増やしていくことですね。あとは、お客さん側の気持ちで物を作ること。ドライバーがどう使いやすいか、ということを真剣に考えることも大事になってくると思います。

ーーー特殊なことができるだけではなくて、それをちゃんと使う人の現場に落とし込めるかどうか。架装という仕事は、見た目と機能の間にある「使われ方」を形にする仕事なんですね。

中西:作る側の理屈だけで終わると、現場では使われない。ドライバーがどう触るか、どう乗るかまで考えて初めて、「ココじゃなきゃダメだ」と言われる仕事になるのかなと思います。

蜂谷:そうですね。そこは大事にしたいです。

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