株式会社ヨシノ自動車

自走する組織について ~2018年の終わりによせて | トラック業界“鍵人”訪問記 第24回 ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第24回

株式会社アマギ 代表取締役 小川一弘様

株式会社アマギ 代表取締役 小川一弘様

経営者は必読! 今後、私たちは外国人労働者をどう受け入れていくのか?

昨年の10月に政府は、専門性の高い職業で働く外国人労働者に在留資格をあたえる「特定技能」を2種新設することを発表しました。この在留資格によって日本の人手不足に悩む産業はどう変わるのか?さらには現在、外国人技能実習生に対する不正な労働環境が問題になってもいます。いま再び問いたいのは、我々は「外国人労働者をどう受け入れていくのか?」。今回ご登場いただくのは神奈川県相模原市に本社をおく、株式会社アマギの代表である小川一弘様です。アマギグループは相模原市を中心に自動車やトラックの整備・板金、販売を行う11店舗を展開されています。株式会社アマギでは現在、フィリピン人が2人、ベトナム人が3人、整備士の技能実習生として働いており、これからも積極的に雇用していく方針とのこと。もちろんヨシノ自動車にも、ベトナム人の留学生が整備士として働いています。今回は外国人を雇用する経営者の視点で、外国人労働者について対談していただきました。経営者が気にかけなければならない、様々な課題と心構え。そして少子高齢化で人口が先細りする日本において、考えなければならない、経営者として直面する課題や判断に、必ず役に立つ内容となりました。

写真・薄井一議
デザイン・大島宏之
編集・青木雄介

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外国人労働者と経営者

____今回は外国人労働者という昨今、非常に熱い話題について対談をお願いいたします。難しいテーマですがどうぞよろしくお願いいたします。

小川:はい。よろしくお願いいたします。

中西:この外国人労働者の問題というのは、業種関係なく最低賃金で重労働をさせたり、酷いところだと(失踪を防止するために)パスポート取り上げるなんて話までメディアに取り上げられています。実際、悪いところを言い出せばきりがないぐらい出てきますよね。現実問題としてもあることは確かです。ただこの問題というのは、経営者がどう取り組むかなのです。安い労働者として働かせたいと考えるのか、同じ仲間として迎えるのか。これから先、日本は労働者人口が減るわけですから、グローバルに人材を求めなければいけない瀬戸際という実感がありますね。

外国人が日本で働くためには

____今回はその経営者の視点という点を、中心にお伺いしたいと思います。整備業界ですが、やはり成り手がいないという問題に直面しているのでしょうか。

小川:そうですね。元々は人材の確保が難しいところから始まっています。弊社もヨシノ自動車さんも加入しているロータストラックネット(トラック整備の非ディーラー系サービスネットワーク)という組織には以前から技能実習生だけではなくて、新潟国際大学という外国人留学生の受け入れ組織があったんですね。

中西:外国人労働者も色々な受け入れの仕方があって、留学生が国家資格の整備資格を取ると日本での就労ビザがおります。弊社は留学生の就労者としてビザを発行してもらって、雇っています。他には技能実習生といった制度で、あくまでも(大義名分ですが)日本の技術を3年間に学んで自国に持ち帰って展開しましょう、と。これは期限が決まっていました。元々は3年、再延長しても5年までという具合ですね。

小川:その制度自体を理解している人が、少ないことも問題です。弊社がずっと取り組まないでいたのも、私自身、その仕組みが分かっていなかったからです。もう一つは外国人の労働力が「安く使える労働力」と考える風潮があって、そもそもその考え方に馴じまなかったんです。それと雇った際の、現場のスタッフの負担を考えた時に「難しいな」と考えていましたね。

外国人労働者を雇う、きっかけとは

____日本語が不慣れで、コミュニケーションが取れない不安などですね。

小川:そうです。そういう意味ではロータストラックネットの試みは先駆者ですよね。業界のオピニオンリーダーとして外国人労働者の受け入れを積極的に推進していましたから。その意味では弊社は乗り遅れました。

____では逆に小川さんが外国人労働者を雇おうと考えたきっかけは、何だったのでしょうか。

小川:やはり人材の確保が難しくなってきたからです。店舗を広げたいと考えたときに、人員を募集しても人材が集まらないんです。募集しても補充が出来なくなってしまった。「これは困った」となった時に、お世話になっていたあいおいニッセイ同和損保さんの方から、フィリピンの現地法人で「日本に外国人労働者を斡旋してくれるシステムがありますよ」と聞いたのです。「行ってみませんか?」と聞かれて行ってみたのが始まりでした。

面接して、明朗でエネルギッシュな印象を受ける

____その伝手があったのですね。

小川:その時はまだ疑心暗鬼でしたね。その時に面接したのが今日会っていただいたフィリピン人の2人ですが、彼らからものすごいパワーを感じたんです。今でもよく覚えているのですが、18名と面接をしました。18名全員から感じたのは、とにかくエネルギッシュということでした。正直、同世代の日本人の若者で「ここまでやる気に満ちた人材はいるだろうか」と衝撃を受けたのです。それでいて非常に素直です。私はその時、国籍関係なく、「彼らと働きたい」と考えました。これがきっかけです。そこから私自身、制度を勉強して留学生で就労ビザを取得する人材と、特定技能実習生の制度の違いなどが分かってきました。

____なるほど。まず働き手として彼らの魅力があったのですね。

小川:はい。実際に彼らはとても明るいので、現場の雰囲気がとても良くなりました。本来、トラック整備の現場というのは、重々しくて決してフレンドリーな現場ではありません。もともと私はそういう雰囲気が好まなかったこともありまして(笑)、まずそこが変わったなと考えています。

彼らのやる気が社内に好循環を生む

____ヨシノ自動車でもベトナム人の留学生を受け入れていますが、彼らが入って変わったことはありますか。

中西:僕もロータストラックネットに携わることで、知ることができました。それまでも実習生や研修生はボディの架装メーカーなどでは受け入れられていました。けれども整備士としては初めてだったんですよね。弊社としては、スタッフが足りないということはありませんでした。提携している地元の整備学校から、新卒の社員は採用できていましたから。ただ今後、どうなるかは分かりませんよね。まずはトライアルということで採用してみたのですが、留学生で来ている彼らも整備士になりたくて日本の整備学校に来ています。会ってみると、彼らは「日本に来て整備士になりたい」という目的が明確だったんですよね。そこは小川さんと同じ理由で、面接の時のやる気の度合いが一般の日本人とは全く違っていたんです。これは弊社でも「採用する機会を作ってみよう」と考えました。そうすると、ものすごくやる気のある人材が入ってくるので、既存のスタッフたちが「負けてられない」という雰囲気になるようで活気が出ましたね。弊社はたまたまベトナム人なのですが、性格も明るいので、現在ではすっかり溶け込んでいます。

今後は外国人労働者の人材確保が大変になる!?

____私もお会いしてるし、働かれている現場も見ていますが溶け込んでいる様子でした。現在、株式会社アマギさんでは研修生は何名ぐらい働いているのでしょうか。

小川:現在、全社員が110名いまして外国人労働者が5名、来週もフィリピンから3名新たに加わります。さらにこの8月にベトナムから3名を採用したいと考えています。

____一気に2倍以上に枠を拡げるんですね。

小川:弊社はもう実習生がいないと厳しいですね。日本人でこれだけやる気のある人材を、この人数で確保しようとするのは本当に難しいですね。特にこれからは人材確保が大変になってくるのは目に見えています。とにかく「早く動くべきである」と感じています。

中西:小川さんの会社も事態が深刻になる前に、早めに採用を決めているんです。これは本当にここ数年の話なんです。実際、あいおいニッセイ同和損保さんのシステムは、フィリピンで経験者を上手に採用できているんですね。ここ直近だと「仕事は何でもいいから日本で仕事がしたい」 という人材が多く見受けられると聞いています。だからわざわざ現地に出向いていって、面接をしても専門技術を修得した人材が採用できていないという実態も現実としてあるらしいです。

小川:弊社が最初に面接に行ったのが、もう2年前ぐらいになるでしょうか。その当時はまだ取り組みが始まったばかりだったので、経験値の高い専門性の高い人材が多く応募してきました。私自身も、これまで繰り返し面接を行ってきた中で 明らかに その経験値という意味では低下が見られています。これからも、どんどん時間を追うごとによってこちらが希望する人材のクオリティの確保は難しくなってくるかもしれませんね。

トレーナーの必要性と、その地位の向上

____なるほど。

小川:そこで「どうすればいいか」という話なのですが、やはり自社での教育が大事になると思います。弊社の方でそのキャリアプランを、どのように描いているかというと、すでに弊社で経験を積んだ整備士を新しい部門で指導してもらいます。それは最初から想定していました。そもそも最初に弊社で採用した人材は、日本語より職業経験値が優れていました。年齢も30半ばで技術がある。日本語は徐々に慣れてもらうとして、新しい人材を教育できるポテンシャルがあると考えました。今度、フィリピンから来る技能実習生たちを日本人が一から教える、というのはものすごい困難を伴います。実際に実習生達とお話いただいてお分かりになられたと思いますが、日本人の日本語のペースで話しても理解してもらえないのです。ゆっくりと話をしなければいけないから、ものすごく大変なのです。

中西:多分、受け入れる側だけで、そこの課題をすべて引き受けようとすると難しくなりそうですね。現地でもその意識を共有して、まず日本に来る前に「最低限これだけはやれるようにしてください」という教育があればいいと思いますね。

小川:そうですね。私は今後の日本を考えるに、「すべての仕事を日本人でまかなおう」と考えるのは不可能だと考えています。もちろん トレーナーとして教育的立場にある彼らの給与はどんどん上げていきます。そうやって日本人と変わらず、給与やキャリアプランを考えていけば良いと、弊社では最初から考えていました。

新制度で選ばれる雇用環境

____そこが一番大事なところかもしれないですね。単純に安い労働力を確保したいというだけで外国人留学生や技能実習生を受け入れて、酷い条件で働かせてしまえば失踪するのも無理のない話です。

小川:今回、在留資格である「特定技能」が新設されることによって、今後は「失踪がなくなる」と言われています。なぜかというと現状だと、技能実習生は他社には移れないんです。その自由がない。けれども、そもそも彼ら同士のネットワークは情報量がすごいんです。彼らは職種の最低賃金を知っているので、時給換算すると地方と都市部では賃金格差が大きくなってしまいますよね。そうなると賃金の低いところから高いところへ移っていってしまう。もちろん失踪した実習生を受け入れてしまうところも問題だと思います。今回、特定技能の制度がしっかり機能すればそういったことはなくなるはずです。要はそれによって、彼ら自身が職場を選べる自由を持てることになりますから。

中西:結局は受け入れる側の我々も、雇用環境を彼らに選ばれるんですね。常に人員が豊富な会社と、足りていない会社の差も広がると思います。

懸念になるだろう賃金や環境による地方格差

____難しいですね。そうなると、どうしても都市と地方では賃金格差がありますよね。そうなると地方での雇用は難しくなりそうですね。

中西:そうです。実際、現実的にそれは問題になっているんですよ。ロータストラックネットは北海道から九州まで加盟店がありますが、雪深い地方だと東南アジアからの働き手から見れば、「寒くて行きたくない」など環境としてもハンデがあったりします。会社の環境以前に、彼らもエリアで絞っていたりもしますから。

小川:今後は地方で外国人労働者を雇い入れたいと考えたときは、 その格差は考えざるを得ないですよね。

____そうなると地方でも都市部と変わらない賃金体系が求められていくわけですよね。その地方格差は、日本人労働者の問題でも一緒のような気がしますね。

小川:ある本に書かれていて「その通りだな」と思ったことがあるのですが、賃金を上げていくということに対して、経営者は真摯に受け止めて努力しなければいけない、と。全くその通りだし、これまでの経営者というのはそこから逃げてきていたような気がします。これからはコストを下げるという考え方より、いかに利益を上げて従業員に還元していくかを考える。どこまで給与水準をあげられるか、そこが重要だと思いますね。きれい事を言うつもりはないのです。現実がそうなのですから。

給与を上げるための経営者に課せられた使命とは

中西:そうですね。最終的にそこも含めて大事なのは教育ということになってきますね。整備業界でいえば、給料を上げるためには工賃を上げるしかないんです。今まで1時間あたりの工賃を5000円から8000円で受注していたとします。それを1万円にするためには「お客さんに工賃をあげます」といっても納得してもらえないので、それに見合う技術力かサービスを提供しなければいけない。ということは作業効率も含めて、人材の能力をあげていかないといけないわけです。整備はすごくシンプルなところがあって、通常なら5時間かかる作業内容を、技術がある整備士なら3時間で終わらせたりすることがままあります。でも、もらえるお金は一緒です。

____分かりやすいですね。

中西:つまり技術が上がれば、単価をあげることができる。最近よく聞く話が、例えば運送なら運ぶ荷物はあるとして単価が見合わない、と。a 地点から b 地点まで運ぶということであれば、ドライバーとトラックがあれば完結します。でも会社として倉庫を持って荷物を仕分けしたり管理したり、あるいはドライバーが営業して荷物を取ってくるようなセールスドライバーのような形態であったり、それで単価の高い荷物を引き受けるようになるとか、必要なのはそういう経営者の視点ではないかと思うんです。つまりすべては経営者の努力、裁量次第ということになると思います。新たな付加価値を創出して、そこに社員も努力してもらう。今後はそうしていかないと生き残れないと思いますね。

外国人労働者を迎え入れるにあたって、絶対にする約束とは

____なるほど。了解しました。例えば実習生を受け入れる上での困ったことだったり、悩まれていることはありますか。彼らを迎えるにあたって何が大事なのか、そういう事をお伺いできればと思います。

小川:まず彼らを受け入れるにあたっての心構えとしては、日本人社員にきっちり説明をすることですよね。来る前に、それは僕が自らやりました。絶対にバカにしたり、差別的なことはするな。言葉がわからなくても、態度や表情で絶対に彼らに気付かれるぞ、と。差別は、私も会社も絶対に許さない。そう伝えました。それは全社員を集めてやりましたね。そこからスタートしました。それと気をつけなければいけないのは、来日してからの心のケアです。やはり彼らも祖国を離れてきているので、毎日暮らしているうちに表情が曇っている時があります。

____ホームシックになったり、ということですね。

小川:逆に考えればそうでしょう。我々が3年間、フィリピンで仕事をしなければいけないことなんて、想像さえ出来ないはずです。そのサインはキャッチしなければいけないですよね。そこを現場にまかせきりというのは絶対に良くないと思っています。弊社は朝、出勤するとみんなで顔を合わせて挨拶をしてスタートをし、帰りも会議室で皆で顔を合わせてから帰ります。その時、一人一人の表情を見て、心に何かわだかまりがあると分かりますよね。「どうした?」と訊いてあげる。そんな風に声をかけますし、現場を見るときも極力、皆に声をかけるようにしています。本当にサインは出ていますから、そこは気をつけてあげないといけないところだと思います。

必ず2人以上採用して、同期をつくる

____それはやはり日本に迎え入れているから、という感覚なんでしょうか。

小川:はい。それと日本人と差をつけないことですよね。彼らを気にかけすぎると、逆に日本人スタッフが面白くなくなってしまいます。まだこの会社ではそれはないですが、そうなる可能性はあると思います。

____そこは本当に難しいところだと思うんです。2人いればまだいいかもしれませんが、日本のなれない文化に一人で来て 右も左も分からず言葉も分からず、言われるがままに仕事をしなければならない。最初は相当な困難が立ちはだかることは想像できますよね。

中西:本当にそうですよね。ですから、弊社では採用時に必ず2人以上、採用するようにしていますよ。

小川:そこは気をつけなければいけないポイントの一つですね。一人では絶対に入れない。

中西:「同期を作らなければいけない」と思ってるんですね。例えば一人で間に合うような部署でも必ず2人入れるようにしています。そうしないと日本人でも同期がいるといないでは大きく違います。最初はお互い助け合ったり、不安を打ち明けあったりしながらも、やがて良い意味でライバルになるでしょう。それが外国人であればなおさらですよね。人件費が一番のコストになってしまうので中小企業はそれが難しいのも分かります。余剰の社員というのは基本、採用出来ないのですが、そこを無理してでもやって行くんですね。業務も二人、営業も二人、整備も二人。弊社は必ずそうしています。

小川:それができるのはベストですね。弊社も必ず同期を入れるようにしているのですが、同じ部署に入れるのは難しいかもしれないですね。でもそれがベストです。実際、僕もディーラーに勤務した経験がありますが、同期はいたし、いまだに繋がっています。横のつながりが本当に精神的な支えになるんですよね。それは外国人もなおさらですよね。面接の時に必ず「何か質問ありますか」と投げかけた時に、彼らは「他に外国人はいますか?」と聞いてきますからね。

素性の分からない紹介者とは関わらない

____そうなんですね。それで「いる」と聞くと安心するんですね。

小川:そうです。

____わかりますね。彼らは相当な勇気を持って住み慣れた祖国を離れているわけですから。ここで疑問なのですが最近問題になっているのは、労働者である彼らが日本に来るのに相当な手数料を払ってきているというニュースです。

小川:はい。そこには利権が発生して群がっている人たちが多いんでしょうね。ヨシノ自動車さんもそうかと思いますが、やはりどこを仲介するかは非常に大事で、我々は自分自身が知っているところからの紹介でしか採用することはありません。そこには危険性も潜んでいますからね。

____人を紹介するというのは覚悟がいることですからね。

小川:はい。よく飛び込み営業で「外国人労働者の人材は必要ありませんか」なんて電話がかかってくる。同業者の間でも「こういう手合いに関わってはいけない」と認識されていますね。もちろん、ちゃんとしたところである可能性もありますが、それを確認できる術がない以上、自分の足を使って、ちゃんと面接をして選んだ人材じゃないと、どんなバックグラウンドで紹介されてきているのかが見えません。弊社はお付き合いのある保険会社さんから始まっています。そこも確かに最初から決めていたことですね。素性の分からない仲介業者は使わない、と。 その辺は海外で取引もある、中西社長も詳しいと思いますが。

中西:そうなんですよね。今はいろんな保険会社さんが外国人労働者の仲介をされています。しっかり送り出し機関としての働きをしてもらえる実感はありますよね。そこの質によると思います。

外国人を受け入れるにあたって日本は遅れている!?

____やはりその仲介業者の質なんですね。

中西:そうです。イメージで「フィリピン人はいいよ、ベトナム人はいいよ」と言っても日本人と同じで働き手の質は千差万別で、真面目な人も不真面目な人もいます。それと一緒ですから、現地仲介業者の質がまず大事になってきますよね。結局、今は専門学校も日本人の学生が集まらない。なぜ日本の新潟国際大学が海外の留学生制度を始めたかと言うと、日本人の若者で整備士になりたいという若者が全然来ないという現実があります。

小川:その通りです。去年の12月にベトナムに行ってきたのですが、多くの現地の人たちとお話をする機会を得ました。その中で「日本は遅れている」という声を聞きました。「このままでは他の国に行ってしまうよ」と言われたんです。思うに中国は一人っ子政策で日本とは比べ物にならないぐらいの労働者不足が来ると言われているんです。台湾だと日本に比べて留学生や技能実習生が滞在できる期間が長いんですよね。そうなった時に東南アジアの人材は人材不足になった時に、日本のイメージはいいけれども結局、制度として日本に長く働くことができないとなれば、他の国を選ぶということになってしまう。

____確かにもともと日本に良いイメージがあって、日本が好きだから来る人もいるかもしれませんが、大部分は賃金や環境、そこで得られる職業的な経験を求めてくるからでしょうね。今日、お話しさせていただいた技能実習生が、みんな自分たちの国に帰って整備工場をやりたいという夢を持っていたのが印象的でした。

小川: 実際はそういうことですよね。

出来るだけ長く働いてもらいたい人材とは

____アマギさんとしても、可能であれば「そのまま日本に残って整備士を続けて欲しい」と考えていらっしゃるのですか。

小川:そこは臨機応変に考えていきたいと思っています。もともと彼らが持っている夢を大事にしてあげたいですよね。そのサポートをしたいと思っているわけですから。それは日本人の社員に対しても同じ気持ちでいるんですよ。実はこのまま日本に永住したいと考えている労働者のことも考えていて、現地の工科大学、自動車科を出ている子は 就労ビザが出るので マネージメント能力をつけてもらって「長くこの会社で働いて欲しい」と思っていますね。ちなみにそういう人材がいるということなので、今月海外に会いに行ってくるんですよ。

____ものすごいスピード感ですね(笑)。

小川:どんどんどんどん進んでいきますね(笑)。とにかく現在の外国人労働者たちを取りまとめる存在が欲しくて、工科大学を出ている28歳の青年に会いに行ってきます。実はもうスカイプで面接はしているんですよ(笑)。これだけで決めるのは「さすがに無理だな」と感じたので、この機会に会ってくることにしました。

一般職で応募してきた中国人女性

____分かりました。さて、ここまではお互いの外国人労働者を雇い入れた経験の中でお話をいただきましたが、日本という国を考えた時に今後、日本はどんな国になっていくとお考えでしょうか。業界関係なく、この整備業界で起こっていることは少なからず日本の他の業界でも同じような事態に直面するはずですから。

中西:いま外国人を受け入れるとしても、専門性のある職種に限っての話ですよね。板金もそうだし整備もそうですけど、言葉は通じなくとも技術は通用するというのが特定技能実習生の前提としてあるわけですよ。この間、 香港出身の外国人が日本のビジネススクールに通って、新卒採用で弊社に面接に来たんですね。確かに日本語検定で2級は取っているので、普通に話すレベルでは問題ないのですが、彼女は弊社で「営業をやりたい」と言ったんですね。彼女は香港では大学まで出ているんです。一度は就職して香港の空港で内勤の仕事も経験しているんです。もともと日本の文化が好きなので日本で働きたいという動機があったようです。

多様性の中に可能性を見出したい

____そういう方は多いですね。

中西:私も面接をしました。トラックのような専門性の高い商材を営業するというのは大変だとは思いますが、それは日本人の新卒でも同じことですよね。言葉も「仕事の経験を追って覚えてくれるかな」と思ったんです。けれども僕以外の営業部員は「みな厳しいです」と顔を曇らせてしまいました。 僕以外、全員反対のような感じだったので不採用にしてしまったのですが、現在でも心残りだったりするんです。「もうそんなことを言っている時代ではない」ではなくて、もちろん弊社として、どうしても採用しなければいけない人材ではないのですが、「どんどん試してみたい」という気持ちだったり、「他ではやっていないことをどうしてもやってみたい」という気持ちだったり、将来を考えた「そういうチャレンジをすべきではなかったのだろうか」と考えたんですね。よくある中国と貿易をするから中国国籍の社員を入れるとか、そういうレベルの話ではなくて、単純に「働きたい」という意欲があって最低限のスキルがあればどんどん受け入れていきたいんですよ。

____どう転ぶか分からない可能性に、期待するということですね。

中西:そうです。分からないのですが、「マイナスに転ぶことはない」と信じられるんですね。いつも僕はそういう判断なのですが、変わるかどうかはわからないのですが、はじめに立ち返ると日本という国を見たとき文化の流れとして、まだ閉鎖的なところがありますよね。イメージや固定概念が拭い去れない。そこの殻をどう打ち破ってオープンに受け入れていく素養をつけるのか、考えなければいけないでしょうね。

意志が伝わらないもどかしさ

____すごくわかりますね。小川社長がもし現場の整備士に「外国人を入れたいのだがどうだろうか?」と先に相談していたとしたら、拒否反応が出ていたかもしれませんよね。

小川:私は先にそれを決めてしまいましたからね。

____アマギさんもヨシノさんも今では受け入れている経験があるから、受け入れられると思いますけれど最初はそうではなかったはずです。

中西:はい。ヨシノ自動車もそれが整備の現場だから受け入れているんですよ。技術は言葉を交さなくとも通用しますからね。でも営業になった時に、次のハードルがあることがよく分かったのです。今回は不採用という意思決定はしましたが、来年度また新卒採用を行う中で、どうするかは考えています。実際、この傾向は4、5年前からあったんですよ。多くの大学で特に中国人の大学生を受け入れている大学が多くて、そこの経営学科だったり、ビジネススクールに通っている学生が弊社に面接を受けに来てくれていたんですね。

____これまでにもあったんですね。

中西:はい。これまでに4、5人会っています。どうしても「なんで外国人を入れるんですか?」という固定概念から入ってしまうんですよ。外国人だから「それに見合った何かをするの?」という思考なんですね。そうではなくて、その人の持ってる能力だったり、やりたいことだったりをヨシノ自動車にどう反映していくかが大事だと思うんですよ。それがどうにも伝わらない。日本語学校にも通っていたし、ベトナム人の留学生は僕の判断で採用しましたが、現場で教えるのは私ではありませんから、現場にどう受け入れてもらうのかを考えるのも経営者の仕事ですからね。

日本の経営者が日本を変える

____本当にそこが難しいところですね。

中西:僕としては、社内に外国人が入ってくる免疫をつけたいとも考えてるんです。もともとそれが大きな目的なんですよね。今度、弊社の系列会社でウガンダのアフリカ人2人に働いてもらうことになりました。ただ出向先の現場の責任者と話すと、どうしても「賃金を抑えたい」という思いが先行していて、それであれば「弊社の社員としては派遣できない」と再考を促しました。その2人はウガンダの現地会社であるヨシノ・トレーディングの社員なので。

____わかりました。やはり労働者を受け入れるその環境をしっかり整えないとダメであるということと、それはひとえに経営者の責任であるということですね。

小川:本当に経営者次第です。

中西:そういう意味で業界を問わず、経営者の人たちが、いかに社内にある壁を取り払って行った上で、ウェルカムなマインドを持って、人材を取り入れる風潮が広がっていかないと本当に「日本は沈没してしまう」と思っています。就労ビザの発給や移民の受け入れもそうですが、まだまだネガティブな反応も多いですよね。そんなことをやっていると、「外国人労働者は他の国に行ってしまう」という危機感がぬぐい去れませんね。

小川:そうなんですよね。整備士の技能を持った優秀な人材が中国や台湾、他の国へ流出してしまうんです。

中西:日本は「失われた20年」と言われているデフレ経済から、立ち直る術を探さなきゃいけないんです。

いまこそ意識のイノベーションとスピードが必要

小川:本当に日本は謙虚に変わらないといけないです。外国から日本を見ると、よく日本が見えるんですよね。ベトナム人たちと現地で話すと「本当のところはどう思っているのか?」という本音が聞けます。確かにいまだに「日本に憧れている」と言ってくれる人たちは東南アジアには多いけれども、「その外国人が思っているような日本ではないな」と感じるんです。今後、ますますそうなると思います。それはもう産業革命なみの変革だし、イノベーションを起こせない会社は生き残れないんですよね。

____よく分かります。

小川:率直に言って、政治家を含めて「60代以上の人達にその現実が見えてない方が多い」と感じます。移民政策に「NO」と言いたいのは分かるのですが、受け入れていかないと成り立たないのは我々の世代から下は、身にしみて分かっているはずなんです。国際化に向かってどう一人一人が「イノベーションを起こしていくか」ということだと思うんですよね。企業の原理原則に当てはめれば「早く動いたところが勝つ」ということに尽きると思います。外国人労働者受け入れには、確実に先行者メリットが働いていると思いますね。 ここから何が起こるかというと、日本では格差社会が広がるわけですよ。間違いなく。それは言葉にしなくとも、肌感覚で日本人は皆わかっているところの感覚のはずなんですよね。その差はつねづね社員にも言っていることなのですが「勉強したか、しないか」の差なんです。知ろうとしないと変化すら分からないし、その必要性も分からないんですよ。だから、とにかく本を読むところからでも「勉強しろ」と最近、そればかり言ってます(笑)。

____もはや親心ですね。

小川:特に職人の世界だと「俺の技術をもってすれば月50万円は固いんだ」なんて現状に甘んじやすい。でも、それはもう30年も前のことなんですよね。どんどん職人がやっていたことが機械にとって代わられているんです。そこに「勝てるか」という話なんです。そういう現実はやはり知ろうとしないと駄目ですよね。

小川 一弘(おがわ かずひろ)
1968年7月15日生まれ大学卒業後、1991年4月に埼郡いすゞモーター株式会社(現関東いすゞ)入社。1996年6月に株式会社アマギ入社。2008年代表取締役に就任。2018年、関東トラックモニタリング協同組合 代表理事就任。現在に至る。

問い合わせ先
株式会社アマギ

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