株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第45回

レーシングドライバー 横溝直輝様

レーシングドライバー 横溝直輝様

「“プロドライバー”を語ろう!レーシングドライバーから見るトラックドライバーとは?」

今回はヨシノ自動車がスポンサードしている、レーシングドライバーの横溝直輝様が登場です!13歳でレースデビューしてから、19歳からフォーミュラ・トヨタで4輪レースデビュー。2012年にはスーパーGTシリーズ チャンピオン、2013年にはアジアンルマンシリーズ チャンピオン、2015年にはKL CITY グランプリ初代チャンピオンと内外のレースに参戦し、実績を重ねてきました。現在では実業家の前澤友作氏のプロジェクト、MZスーパーカープロジェクトのプロジェクトマネージャーとしてもご活躍中です。そんな現役レーサーでありつつ、プロドライバーとしての啓蒙活動のウェイトも大きい横溝直輝氏と「プロドライバー」について対談しました。トラックドライバーもレーシングドライバーも走ることで報酬を得るプロフェッショナル。対談を通して、プロの運転は何が違うのか?が見えてきました。

写真・薄井一議
デザイン・大島宏之
編集・青木雄介

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プロドライバーは目的地まで無駄なく届ける

____まず最初にプロドライバーについて、横溝さんの考えを教えていただけますか。

横溝:レーシングドライバーから見て、プロドライバーという職種に共通することは、第一に結果を求められることだと思います。 まず結果を求められて、その期待に応えること、その期待以上の結果を残さなければいけない。これはレーシングドライバーとしてはもちろんですが、プロフェッショナルであればどんなドライバーにも共通していることだと思います。それとプロフェッショナルである以上、ただ速いだけではなくて、相手をリスペクトした精神も求められると思います。

____トラックドライバーもドライバー同志や公道を走ることによる、他のクルマへのリスペクトが必要ですよね。

横溝:そうです。昔はレーサーも暴走族の成れの果てというようなことを言われていたらしいのですが、プロドライバーらしい運転をして「そうではない」という所をしっかり表現しなければいけないと思っています。

____確かに「街道レーサー」という言葉がある通り、暴走族とレーサーが一緒くたになっていた時代はありましたね。プロドライバーであるがゆえに、普段の運転で心がけていることはありますか。

横溝:レーシングドライバーは、サーキットで時速300 km 以上のスピードの世界で走っていますよね。意外と知られていないんですが、レーシングドライバーも自動車免許が失効してしまうとレースに出れなくなってしまうんです。前提として、免許証を失ってしまえば仕事を失ってしまう現実がある中で、プロドライバーだからこそ日常運転では交通ルールを守り、一般の人たちに対しても模範になるような運転をすることを心がけなければいけません。よく助手席に乗っている人に「ものすごく安全運転ですね」と言われるのですが(笑)、僕としては当たり前の事なんです。僕らレーシングドライバーはサーキットでは全開で競い合いますが、サーキット以外では紳士的なドライバーであろうと心がけています。それとプロドライバーとはレーシングドライバーも、タクシードライバーも、トラックドライバーも、安全に目的地まで、「無駄なく車体を届ける」というところが共通していると思うんですよ。

プロは逆算の考え方を常にする

中西:確かにレーシングドライバーも車体を目的地に届けますよね。

横溝:はい。いくら速くても目的地まで到達しなければ結果は出ないですし、プロとして失格なんです。 

中西:我々はプロドライバーとは言えませんが、お客様達は皆さんプロドライバーです。横溝さんの話の通り、ルールはもちろん遵守して、いかに無事故で荷物を運ぶかというところが大事になってきますよね。その中で日常的に大事なことは、時間厳守なことだと思います。

____トラックドライバーは延着が絶対出来ませんものね。時間厳守とは、迅速でなければいけない。いかに効率的にその目的地に到達するかということですね。そこで絶対に避けなければいけないのは事故だと思うんですが、横溝さんは事故を避けるために、どんな考えを持っていらっしゃいますか。

横溝:まず「行けるだろうからこのスピードで曲がってしまおう」という、よく言われる「だろう運転」は絶対にしません。 それと僕らは一般の人より視野を広く持ち、より遠くを見ているんですね。だから先で起こっていることを観て、危険予測をする処理能力が早いんです。ドライビングレッスンでもなるべく視野を遠くに持っていく重要性は、かならず伝えるようにしています。目線が近いと、その場所にすぐに到達してしまうので対応が間に合わないですよね。だから、なるべく俯瞰的に物事を見る癖をつけるべきです。

____俯瞰的にですか。

横溝:俯瞰して見ながら、逆算しながら走ります。普段の運転も、サーキットでのドライビングも全て逆算の考え方なんですよ。レーシングドライバーは気合と根性で走るみたいなイメージを持たれている場合が多いんですが(笑)、実は目的地に行くために、すべて逆算して予測しているんです。その地点に到達するだけでも、先々のカーブレイアウトを見越してライン取りやブレーキングの位置も考えているので、日常生活の中でもそれは生かされていますね。前方車両をオーバーテイク(追い抜き)するときも、逆算したものの考えで、実際の行動に出るときには、詰将棋で言えば王手の状態になっているんですね。それが出来ていない状態で無理矢理オーバーテイクを仕掛けると接触やクマラッシュに繋がってしまうケースが多々あります。

逆算すればすべての無駄を省ける

____逆算の考え方は、日常の運転でも通用するということですね。

横溝:はい。例えば簡単な話ですが、遠くの信号が黄色から赤になるとします。その前に横断歩道の信号が点滅して赤になりますよね。視野を拡げて横断歩道の信号の変わり目を認識することで、その前にアクセルを離して、余分なガソリンを伝わずに充分な減速をすることが出来ます。充分な予測ができていれば、無駄なガソリンやブレーキを踏まず、ブレーキパッドを減らさなかったり、タイヤを摩耗させなかったり、と無駄を省くことに繋がります。

____すごく重要な話ですね。

横溝:いつもそういう逆算の発想をしているので、僕らは一般的な人たちより同じ車に乗って同じ距離、同じスピードで走っていてもアクセル開度を最低限にし、低燃費で走ることができると思います。これはトラックドライバーもタクシードライバーも一緒だと思うので、それが燃費の良さだったり、タイヤの摩耗が少なかったりすることに繋がる。プロのスキルとして確実に現れるところだと思いますね。

中西:面白いですね。 そういうところに現れるんですね。それが逆算の発想だったとは思いませんでした。

横溝:例えばサーキットを50周するレースがあるとします。レースにあたって100リッターの燃料を積んでレースをするのか、燃費が良いから90リッターで行くのか、その差でゴールまでの車重が全然、変わってきちゃうわけです。当然、90リッターで走った方が車重が軽いことでタイヤに優しかったり、タイムにも影響してきます。速くて燃費が良くて、タイヤの持ちがいいドライバーはチームから欲しがられる存在になります。燃料コストも抑えられるし。一過性の速さだけであれば、一瞬の輝きに過ぎないというか(笑)。

事前準備で輸送クオリティも上がる!?

____これはすごくためになる話ですね。だからこそ経験値の高いコースだと得意のコースだったりするのも、うなずけます。逆に初めて経験するようなサーキットだと、レーシングドライバーはどういった準備をしていくのでしょうか。  

横溝:プロのレースは現在では土日の週末しか走りません。今までは木曜日だったり、金曜日に走って練習ができたのですが、現在はレース当日に入って予選と決勝で終わってしまいます。だからこそ、準備がすごく重要になってきます。ちゃんと準備ができているチームしか上位にいけません。それも間違っていない準備をしたチームが、上位に行くんです(笑)。ドライバーも事前準備をして臨みます。現在ではシミュレーターのようなものがありますから、それで事前準備をしていきますね。その準備が全て、と言って過言ではないと思います。 例えばレース期間が1ヶ月間空いているとします。もしその1ヶ月かけていた準備の狙いが外れてしまった時に、土日で1ヶ月考えてきたものを修正して、その場ですべてを変えるというのは不可能なんです。エンジニアのような、特に頭のいい人たちが、1ヶ月かけて考えてきた作戦を、ぶっつけ本番で違うやり方をするというのは不可能なんです。だからこそどんな事前準備をするかに限りますね。

中西:現在は事前準備でシミュレーターを使うんですね。それだけクオリティが高いということでしょうか。

横溝:少し前まではゲーム感覚だったのですが、現在のシミュレーターはかなりリアルです。 そこで練習したことが実際のレースで繋がるような、クオリティは相当に高くなっていますね。

____PlayStation のグランツーリスモみたいな感じですか。

横溝:グランツーリスモで充分コースを覚えることができますね。最近では更にプロドライバーにカスタムされたシミュレーターがありますので、それを使用することもあります。 ドライビングレッスンではまずシミュレーターでその人の癖を見て、その癖を修正してからリアルなサーキットを走るパターンも最近多くなってきました。

____なるほど。事前準備を徹底するというのは運送会社にも出来そうなことですよね。初めての積み先でも社員をシミュレート教育すれば、輸送クオリティをあげることが出来ます。

中西:確かに。それとレースの世界で速く走るために逆算しなければいけないというのは何となく予想がついていたのですが、それが低燃費につながるということは個人的に盲点でしたね。運送会社でも採用すべき考え方だと思います。

プロは経験によって求められることが変わってくる

____これはやはり経験によるところが大きいのかなと思います。行き慣れた道はそれだけ視野が広くなるし、余裕がある運転もできますよね。それはトラックドライバーもまったく同じだと思います。プロレーサーにとっての、経験とはどんな意味をもつのでしょうか。

横溝:僕の場合は、若い頃にミスを多く経験しました。若い頃は F 1の若手プログラムなどで恵まれた環境で、バンバン走らせてもらえたので、おかげさまでそこでスキルが上がった部分は大きいです。クラッシュもしました。そこから学んだことが多いと思います。

____トラックドライバーも大なり小なり事故や車をぶつけたり、失敗から反省し、学んでいく部分は大きい気がするんですよね。

横溝:若い頃は「それも若いから」と許される部分があるんですよ(笑)。周りも「仕様がねえな、直してやるか」というような温かさがあります。でも、ある程度の年齢になってくると、それは許されないし、すぐクビになってしまいますよね(笑)。思うに、求められている仕事が変わってくるんです。僕の場合は速いのが当たり前、クラッシュしないのが当たり前、結果を出すのが当たり前という前提で仕事を受けています。出来上がっている一人前のレーシングドライバーとして仕事を受けているので、その期待に応えなければいけません。若い頃のドライバーというのは、それよりとにかく速く走ってその走りを研ぎ澄ませていくことを求められますよね。そうやって10代、20代、30代、40代で求められることが変わっていくんです。 

____トラックドライバーも全く一緒で1年目、2年目は多少ぶつけたところで大目に見られますが、経験を積んでいくとそういうわけにはいきません。その代わり、運転手歴で待遇も変わってきたりはするので、プロドライバーとしての責任はどんどん大きくなっていくわけですよね。

中西:そうですよね。免許を取って、いきなりベテランのように走れるドライバーはいませんからね。思い出すに個人的にもクルマ好きで改造が好きだった若い頃は毎年、何かしら事故をしていたかもしれないですね(笑)。22歳ぐらいまでは本当にひどかったと思います。  

プロの経験は伝えなければいけない

____同じくです(笑)。さて、そんな経験を持ったプロドライバーというのは、交通安全指導やドライビングスクールといった、その経験を社会に還元していくような社会貢献もできると思います。横溝さんはそういったドライバーの社会貢献について、どう考えられますか。

横溝:私自身も、これまでのドライビングの経験を一般の方々に伝えていこうという活動をしています。 皆さんが実際に路上で事故を起こしてしまう時というのは、教習所で教えてもらえなかった原因が多いように思えるんです。例えばブレーキロックしてしまった時に、ブレーキから足を離せば突っ込むことを防げたのにとか、それまでスピンを経験したことがないから、初めてスピンをしてしまった時にどう対応したらいいか分からなかった、とか。そういう未体験の領域を、ドライビングレッスンを通して、どうして起こるのか、どうしたら防げるかを教えていきます。それにより事故を起こしたことのある人でも原因を知ることで、再発を防げるのではないかと。この活動は「続けていきたいな」と考えています。

____いわゆる「車好き」を増やすという活動はどうでしょうか。

横溝:人材の育成や夢のキャリア教育なところで言うと子ども達にスーパーカーやレーシングカーを見てもらって本物に触れてもらう活動をしています。「好きこそものの上手なれ」じゃないですけど、興味がわけば車の理解度が増し、更に車を好きになってくれると子供たちに交通ルールもより理解してもらえると思っています。好きなことをインプットし、それを自分の言葉で友達にアウトプットしていって欲しいなと。昨年はMZスーパーカープロジェクトで幼稚園や小学校にスーパーカーを持って行く活動もスタートしています。こちらはMZ SUPERCARチャンネルのYouTubeで是非チェックしてください。

https://youtu.be/H7KzmX722iU

トラック好きもスーパーカー好きも世代で繋いでいきたい

____なるほど。

横溝:その際に、体育館の中に信号機や道路を作って仮想の街を作りました。電動自動車に子ども達に乗ってもらって運転手目線で交通ルールを学んでもらいました。子供達にもすごく喜んでもらえたんですね。一時停止の必要性だったり、車は急に止まれないことを知ってもらったり、すごく良い活動が出来ましたし、見にきてくれたご両親の方たちも大変喜んでくれました。そういう活動は今後も「やっていきたいな」と考えていますし、スーパーカーを見てスーパーカーの豆知識を伝えていくと、家に帰ったらお父さんやおじいちゃんといった家族にその話をしてくれるわけです。「シロンは時速400 kmも出るんだよ」とか「エンジンは1500馬力あるんだよ」って、お孫さんがおじいちゃん達に教えるらしいんですね。今のおじいちゃん達はスーパーカー世代も入ってきているので、「まさか孫とそんな話ができるとは思わなかった」と喜んでもらっています。

____光景が目に浮かびますね。

横溝:それで感謝のお手紙ももらいました。ヨーロッパに行くと、孫とおじいちゃんでサーキット観戦していたりするのは普通の光景なんです。おじいちゃんに息子、孫といった感じで、3世代で車を楽しんでいるんですね。やはりそれが車の文化になっていて、日本でも3代で繋がると新しい車の文化ができるのではないかと考えているんです。車好きでもスーパーカーが好きな人、レースが好きな人、日本車が好きな人、クラシックカーが好きな人、トラックが好きな人……。車好きといっても、もうてんでバラバラなんですよね。実際、車離れと言われていますが、その点と点をつなげるとものすごく大きな市場があるはずなんです。その皆が繋がっていけば、大きな力があるんではないかと思うんですね。そういったところも、「どんどん盛り上げていけたらな」と思っているんです。

トラックドライバーのイメージを変えていくのがライフワーク

____中西社長も車が非常にお好きですよね。その中でトラック専業のヨシノ自動車という会社を経営するにあたって、車好きとトラック好きの「垣根を取り払いたい」というようなお気持ちがずっとあったと思うのですが、いかがでしょうか。

中西:私はたまたまおじいさんの代からやっているヨシノ自動車という会社を経営していて、ヨシノ自動車の大元は運送会社からスタートしているという経緯があります。改めてこの業界に入って思ったことは、トラックとは人が生活するインフラの中になくてはならないものなのです。好き嫌い以前に「もっと直接的な需要を抱えた業界なのかな」と思っているんです。国内の物流の90%以上が未だにトラックです。それこそトラックがなければ何も手に入らない。存在価値それ自体が社会に大きく貢献しているものだと思っています。

____確かにそうですね。

中西:最近は変わってきましたが、なぜかトラックドライバーの社会的地位は低いものとみられてきました。確かに一部にマナーの悪いドライバーもいて、自ら首を絞めているところはあるかもしれないですが、全体的に見てもドライバーさんの職業的地位だったり、社会の評価というのは決して高いとは言えません。良いイメージがないというのが、私としてはすごく残念だった。それを変えていくというのが、もともとからある私のライフワークでもあるわけです。

トラックドライバーにも特別なライセンスが必要

____すべてそこに繋がりますよね。

中西:片方でレーシングドライバーもかつては暴走族や、峠、首都高の走り屋のイメージがあった訳です。でも鈴木亜久里さんのようなF1にまで上りつめた職業的レーサーが、そのイメージを変えて行った。横溝さんもそうだし、英才教育でプロになったドライバーがどんどん主流になりつつありますよね。私はそこにヒントがあるような気がするんです。他の職業ドライバーも教育的カリキュラムがしっかりしている自動車免許証とは別の、特別なライセンスが必要なのではないかと思うんですね。 

____なるほど。運転技量に特化した特別なライセンスでドライバーの差別化を図るわけですね。ドライバーの地位向上という意味で、もう少し詳しくお話を聞くお聞かせいただけますか。例えばボルボトラックを広い層に「憧れてもらうトラックにしたい」という気持ちも一緒ですよね。

中西:そうですね。弊社の中の売上の中で言えば、大きな割合を占めるわけではないボルボのカスタムに力を入れているのも、乗るのであれば格好いい方が良いと考えているからです。格好よければ子どももそうですし 異業種の人もそうですし、憧れが湧くのではないか、と。その格好良さもセンスの良さを追求しなければいけないと考えていて、その試みが受け入れられてきた感覚はあります。あくまでも男性目線かもしれませんが、その格好いいものを追求したいという気持ちはあります。 格好いいという言葉は言い尽くされた表現かもしれませんが、それは原点だと思うんですよね。 

すべての原点は「格好いい」にある

横溝:まさにその通りだと思います。僕もなぜ「レーサーになりたいか」と考えると、小さい頃にサーキットに行って、レーシングドライバーを見て「めちゃくちゃ格好いい」と思ったのがきっかけなんです。やっぱりそこを求めているし、僕もヨシノ自動車のトラックを見させてもらうと、トランスフォーマーのコンボイに憧れていたから、それが蘇るんです。格好良さは憧れとなって必然的に職業に結びついていくわけですから、そこが一番大事ですね。

中西:ありがとうございます。きっかけは「そこなんだよな」と最近、つくづく思うんです。自分が格好良く思われるための行動になるし、考えになるし、さっき言ったようなレーサーがかっこいい存在でいるための模範となるような、走り方や考え方につながる訳です。だからこそ普段の運転は誰よりも安全運転になるわけです。タイヤの話もそう、燃費の話もそうです。 

____今回の対談は「そこに尽きる」という感じになってきましたね(笑)。実際にトラックを飾る人ほど安全運転だったりしますよね。それはプロフェッショナルとして免許を守るためであり、事故を起こさないための運転をする美学の表れだったりします。その美学は守るための美学だけど、追求するゆえに「格好いい」ということにつながっていきます。

中西:それは追求かもしれませんね。きっかけは格好いいかもしれないけれど、自分が格好いいと思われるためには、冒頭の話に戻りますが、逆算できるスキルや能力を身につけることは、すごく重要な気がします。この2つがないと本当に「格好いい」と言う領域にはならないですよね。この対談で、それをすごく感じさせられました。「格好いい」を追求するという意味ではレーシングドライバーではトップに立つ、それは50週だったら50週を走りきる運転をしなければならない。燃費を考えて、車を壊さず、事故を起こさず、トップで走りきらなければいけない。その逆算をすれば「いま自分が何をしなければいけないか」が分かるわけです。格好いいはあくまでもきっかけに過ぎないわけです。 

横溝:それとプロとしてステアリングを握っている時に、僕らはスポンサーやチームの看板を背負って走っているわけです。トラックドライバーも同じで会社の看板を背負い、ハンドルを握っているわけです。「看板を背負って走っている」という責任感もまた、必ずプロなら持っているはずなんですよね。  

キツいときに自分を支えるもの

____おっしゃる通りだと思います。それがなければプロではない。つまり誰のためにハンドルを握っているのか、その仕事が「なぜできているのか」という根本的な話ですね。この話に関連して、どうしても横溝さんにお伺いしておきたかったのが、極限状態でのプロドライバーの話です。トラックドライバーも厳しい運行スケジュールの中、眠い目をこすって目的地に遅れず到着するために、しばしば極限状態の運行をせざるを得ないときがあります。そんな時はもちろん「止めろ」という話なんですが、それが簡単であれば、日本の物流体制はもっと時間に対してゆるかったはずですよね。レーシングドライバーの場合、ほとんどがその極限状態にあたるわけです。

横溝:うまく説明できないかもしれませんが、僕らは極限状態が無意識に、自然とコントロールできる状態になっているんだと思います。僕らの場合、集中力が切れたら死ぬかもしれないという状態で走っているので、日常的には出せない集中力、俊敏性や、瞬発力が働いていると思います。車内も70°ぐらいの温度になっていて、暑い時は80°ぐらいになる。日常生活で「サウナの中に1時間入っていろ」と言われても僕は入れません。でもレースの時にはそれができているんです。その中で集中力を出して行けるので、レーシングドライバーとしての特殊能力のようなものがあるのかもしれませんね。ただそこで支えているものとしては、自分だけで走っている訳ではないので、チームだったりスポンサーだったり、応援してくれているファンだったりの思いを背負って走っている感覚はあるんですよ。その責任感が僕のメンタルを支えてくれている気がします。 

「たられば」にとことん向き合う

____確かに想像を絶する極限状態ですね。

横溝:若い頃はあまりメンタルのコントロールが「上手じゃなかったな」と思っていて、30歳ぐらいになってくると肉体とメンタルのバランスが合ってくる。そんな気がするんです。若い頃に事故を起こしたり、ミスが多かったのはやはりほとんどは、メンタルが不安定だったからではないかと思うんですね。慌ててしまったりとか、振り返ると「なぜこんなことをしてしまったのかな」と疑問に思うことばかりなんですよね。そういうミスが多かった。ただミスしてしまった時は、レースにおいて「たられば」はないんですが、自分がミスしてしまったことに対しての「たられば」は考えるようにしてきました。その「たられば」に気づかないと、次もまた同じミスをするんです。技術的なことなのか、メンタル的なことなのか、では「こうしなければ良かったな」と「たられば」はしっかり考えてきました。自分で分析して次に活かせるようにしていく。それはこれまでも必ずやってきましたね。 

日本でもトラックでレースをしたい!

____さて最後の話題です。トラックで、モータースポーツって日本でも出来るでしょうか。

横溝:出来ると思います。僕はレースそのものより競争が大好きなんですよね。だから乗り物は「何でもいい」と思っているんです。多分、トラックの方が見た目も大きいし、迫力もあるし、動きが大きいですよね。見ている人は分かりやすくて面白いと思います。最近は YouTube で海外のトラックレースを見ているんですよ。同じものを「日本でも見てみたいな」と思いますね。 

____これは絶対、ヨシノ自動車がやるべきだと思うんですけどね(笑)。

中西:よく言われるんです。絶対にいつかやりたいですね。事業のためというよりは「ただやりたい」というだけですね(笑)。 

____トラックをレーシング仕様に変えることはできるんでしょうか。

中西:出来ると思います。ボルボはアイアンナイトというレーシングトラックを作っていますからね。メーカーがそういうコンプリートカーを作っていますから。  

____日野やいすゞ、ふそうにUD などがワークスチームで対決したら最高なんですけどね。

横溝:僕も興味ありますね。トラックドライバーとレーシングドライバーはどちらが速いのかとか(笑)。 ちなみにヨーロッパに行くと、レーシングチームの中のトラックドライバーは“トラッキー”と呼ばれてめちゃくちゃ大事にされるんですよ。 

____それはなぜでしょう。

横溝:チームの車を、事故なく次の目的地にきっちり運んでもらう責任の大きさゆえです。トラッキーの人たちというのは親分肌の人が多いので、チームの中でも色々仕切ってくれるんですよね。ヨーロッパでのトラッキーはチームですごく重要な存在ですし、リスペクトされているんです。

中西:ヨーロッパはトラックドライバーの地位それ自体が確立されているんですよね。日本とは比べ物にならないぐらい。

横溝:日本も先ほど中西社長がおっしゃったような、ライセンスが交付されたりすることで給与が上がったり、トラックドライバーの地位向上が進むといいですね。自動運転の社会が進んでいく中でも、ライセンスによってよりドライバーの付加価値が高まることが地位向上につながるかもしれません。

横溝直輝 様
1980年神奈川県生まれ。幼少の頃からカートに親しみ、レースデビューした1993年の大井松田SLシリーズSCストッククラスでチャンピオンを獲得。19歳からフォーミュラ・トヨタで4輪レースデビュー。主な戦績は2012年にスーパーGTシリーズ チャンピオン、2013年にアジアンルマンシリーズ チャンピオン、2015年にKL CITY グランプリ初代チャンピオンを獲得。2017年にGT World Challenge Asiaで日本人初の総合優勝。現在はレーシングドライバーとしての活動と並行して、社会貢献活動や実業家の前澤友作氏のプロジェクト、MZスーパーカープロジェクトのプロジェクトマネージャーとしても活躍中。

テレビ東京系「SUPERGT+」ではレギュラーMC陣の一人として出演中。

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