トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第73回
ファストエレファント カスタムパーツ事業部
ファストエレファント カスタムパーツ事業部
トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第73回
ファストエレファント カスタムパーツ事業部
ファストエレファント カスタムパーツ事業部
「カスタムパーツで海外進出!“日本らしさ”のバリエーションとは何か?」
ヨシノ自動車によるボルボトラック・カスタムラインのファストエレファントがパーツ販売をはじめて4年以上になります。輸入パーツの販売が堅調なところに、ハンドルやシートカバー、ダッシュマットなどオリジナルパーツも好評を得ています。そんなファストエレファントがパーツ販売による海外進出を計画中。はたしてメイド・イン・ジャパンのボルボトラックパーツは海外で売れるのでしょうか? 社主の中西俊介とディレクターのアルフレッド中渡瀬に直撃しました!
編集・青木雄介
WEB・genre inc.
____今回はファストエレファントのオリジナルパーツ販売を、海外拡大する話をしたいです。やはり社長としては、より高い目標設定で会社の成長を押し上げるための挑戦と位置づけているのでしょうか。
中西:社長である、僕としてはそうなんですよ。ファストエレファントというブランドもそうだし、そこで取り扱う事業自体が全体の成長戦略のために必要不可欠な要素です。パーツ販売ももともと本業から外れているわけではなく、本業の延長上にある事業であるという理由がひとつ。その意味ではスタートからパーツ販売に特化した社員はいないですし、関わる誰もが月次のやらなければいけない仕事を並行していきます。
____現状に対して、より高い負荷をかけていくということですね。
中西:そうですね。いまヨシノ自動車は全体的に何となく売上があがっている感じで、売れていることに対して経営者以外は分析していないんですよね。
____売っている社員はあくまでプレイヤーで自分の数字だけを追いますから。
中西: そうです。悪いことではないのだけれど、自分たちのスキルを上げるためには負荷をかけなければいけない。
____確かに。
中西:ボルボは日本でのシェアは低いかもしれないけれど、世界のシェアで考えれば大型トラック販売の第2位なわけです。同じキャブを使っているという意味で使えるパーツは全世界共有です。だからこそパーツだけに特化すれば、日本の市場なんて比べようもないぐらいの大きなマーケットがある。そこを狙っていくというのは「ほとんどの人に無理だ」と言われている挑戦なんですが(笑)、片方で国内での販売を軸にした事業を堅調に行ってきていて足元はしっかりグリップできています。ヨシノ自動車として考えればアフリカのウガンダという限定した海外展開はありますが、パーツ販売はボルボが供給している全世界がマーケットになりますね。
____なるほど。進出していくための戦術はどんなことを考えているのでしょうか。アルフレッドさんの考えを教えてください。
アルフレッド: その話を聞いた時から、僕自身も「やりたいな」と目標にしてきました。去年にドイツのトラックショーを見て、日本のトラックショーは「寂しいな」って思ったんです。出展している日本のメーカーはゼロに近かった。韓国も出ているし、中国も本格的に進出してきたとしたら会場を、別に借りなきゃいけない規模だそうです。よく考えると日本はもともとそういう国じゃないですよね。海外にどんどん進出していって、製品は職人さんのいる「技術の日本」でクオリティが高い。スティックスの「MRロボット」の歌じゃないですけど、かつて海外では日本からたくさん先端の機械が来ていると言う危機感があったわけです。それは南米にもありました。だからこそ「日本のオリジナルを出したいな」という気持ちがあって、一番とっかかりやすいのは職人さんが作ったものだと思うんです。日本の匠(たくみ)の技というやつですね。ハーツさんの造っているオリジナルハンドルだったり、日本で造っていて海外にはないようなパーツを輸出したい。
ボルボのハンドルをウッド加工したオリジナルパーツ。リアルウッドをハンドルの形に整形し、その上からコーティング加工している。マホガニーなど木の素材や色も選べる。 https://fast-elefant.shop-pro.jp/?pid=172093365
____ああいうオリジナルハンドルみたいなものは海外にはないんですね。
アルフレッド:ないんですよ。内装はがっちりやっていても、ハンドルはただ塗装しただけだったり。こちらはリアルウッドです。シートカバーひとつとっても向こうの造りというのはちょっと安っぽいんですよ。そういうところで差別化を図って、日本のクオリティを追求したいですね。
____こちらはもう商品化されています。テーマは高級感ですか。
アルフレッド:そうですね。もう少しランクの高い、高級感のあるカスタムを目指す人にとって、「やっぱり日本製はいいよね」って思ってもらえると思います。そこは市場を作れる可能性があると思います。ヨシノ自動車の主軸は販売事業なのですが、ファストエレファントが向こうを張るような事業にしていきたいんです。ここまではヨーロッパ篇で、普及していないアフリカだったり南米だったり、そういう非欧州圏で流行らせるのが最終目標です。
____ボルボを販売している全世界ということですね。
アルフレッド:そうです。ボルボトラックならそれができます。発想さえあれば必ず市場はあります。
____なるほど。そこで中西社長に質問なんですが、とはいってもヨシノ自動車はそういった海外販売の経験はありません。ウガンダでの中古トラックの販売事業ともパーツ事業の商流はちょっと違いますよね。今後はその辺の未経験な部分をどう強化していくつもりなのでしょうか。
中西:まずパートナー企業が大事になってくると思います。海外にパーツを送るにしても船会社が必要ですよね。我々はアフリカに現地法人を作りましたが、それも地元のパートナー企業さんがいるから出来たことなんです。今までの経験値で言うと、アフリカではゼロからスタートして今に至るまでビジネスの道筋をつくることが出来ました。今ではどこよりも安くアフリカのモンパサまで車体を輸出することが出来るようになりました。その経験があれば「他の国でも何とかなるんじゃないか」という気はしているんです(笑)。
____なるほど。
中西:もう少し具体的な戦略を話すと、まず自分たちでできるのは向こうの展示会に出展すること。そこで実質的なマーケットの調査をしてみたい。展示会に出してみて、その反応はどうだったかを知りたいです。展示会に出展することによって他に出展している海外他社とのコミュニケーションもとりたいです。そこでどれだけのマーケット規模でやっているのかとか、出展することで多様な情報を収集できるんじゃないかと期待しています。
____まず展示会ですね。
中西:もうひとつその中でボルボディーラーとして何十年とやっている中で、現地のボルボディーラーさんと接点をつくることも可能ではないかと考えています。それも「やろう」と思えばできるはずなんです。
アルフレッド:前回、僕が行った時も、パーツメーカーのジャンボと仲良くなったのでファストエレファントで作った商品を海外で売れないか、相談しているところです。こちらからオーダーしたホイールを向こうでも販売する。一番、シンプルですよね。今のところストランズとももっと仲良くなりたい。なぜかと言うと会社がスウェーデンなんです。そして社長がペルー人なんです。ペルーとスウェーデン人のミックス(笑)。
____血がつながりましたね(笑)。
アルフレッド:絶対、僕とうまくいくはずなんですよ(笑)。
____ようするに、彼らの商品を日本で売るから我々の商品もそっちで売ってくれないかということですね。
アルフレッド:はい。本当に現地を見れて嬉しかったし、そういう繋がりができたことは非常に成果がありましたね。
____その点からいくと現地で販売していないワンオフのハンドルを販売するというのは、すごくいいアイデアでしたね。
アルフレッド:現地調査をしてきましたからね。自信があります。向こうにもカスタムハンドルがあると言えばあるけど造りは日本の方が断然上です。本当によくよく見ると違いは分かるはずです。
____ちなみに日本で販売したウッドハンドルの評判はどうですか。
アルフレッド:めちゃくちゃ喜んでいただいてます。噂が噂をよんで芋づる式に販売できていますからね(笑)。それと今、韓国の周辺機器が熱いらしいんです。アラウンドビューモニターとか。この分野で日本は遅れていて、日本製のアラウンドビューモニターがないんですよ。なんか日本は電気製品が弱くなりましたね。中のパーツは海外製ですがコムテックさんとかが割と日本市場は頑張っているみたいなんですけど。
____アラウンドビューモニターも日本独自仕様で作ってみたいということですね。
アルフレッド:その通りです。出展もFEだけじゃ面白くないですよね。チームジャパン的にみんなで集まってブースを作りたい。ユーロっぽいオリジナルマーカーも作っているし。
____例えば小糸製作所の歌舞伎テールランプ的な日本っぽい製品を作る予定はないんですか。
アルフレッド:実はまだ社長には言ってないんですが、ある国産のカスタムメーカーが面白いテールを出しているんですよ。カクカクとした形のデコトラっぽい造形をしているんです。それをヨーロッパ仕様でボルボ仕様に作れないか目下、相談中なんです。日本の製品だけれど、向こうで通用するサイズにするだけで販売はできるんです。日本っぽい名前もそのままで使えればと思っています。社長からヒントをいただいたんですが海外を攻略するなら「やっぱりジャパネスクなもの」で行こうと。
____本当にそう思います。向こうと同じものを作って競合するのは難しいですからね。
中西: 無難なのは、いま我々が取り扱っているドイツ製のパーツなどをアジア圏で作ってもらって半額で販売するようなビジネスです。それはすでに海外で主流になっている行為だし、シェアを大きく獲れるのであれば結果的に良いかもしれません。でも、私の商売をやっていく上での本質が「自分がいいものだ」とか「好きなものだ」と思えるものじゃないと嫌なんです。それが結果、「流行ればいいな」と思っているだけなんです。そういうスタンスでやっているので、受けるか受けないかは分からないにしても、せっかく日本から発信するならやっぱり「日本的なものがいいだろう」と思いますね。
____なるほど。日本製だからこそ、日本らしいものということですね。
中西: ただ「日本らしいもの」というのは我々が考えている日本らしさと、海外の考えている日本らしさというのはちょっと違うんです。今回は海外の人が考える日本らしさが「鍵だな」と思っているんです。それはハリウッド映画などで日本の風景が出てきた時に、日本人にとっては違和感やギャップがあるような日本らしさ。彼らが考えている日本像というのはこの令和の時代においてもあまり変わってなかったりしますよね。その感覚が「必要だな」と思っています。そのためには去年、アルフレッドが行ったように現地の人たちと接点を持ってどんどん触れ合っていかないと、その感覚が「身につかないものだな」と感じています。
____アルフレッドさんは、次は忍者の格好で出展しなければいけないですね(笑)。
アルフレッド:顔が忍者になりませんよ(笑)。忍者といえば、いま日本の某有名アニメキャラクターとコラボしたいなと考えていて、メイド・イン・ジャパンとして分かりやすいもの。ドラゴンボールやナルトなんて日本の人気アニメがありますけれど、そういう感じじゃなくてもっと大人でもよくわかるもの。アニメとコラボして分かりやすさと、こちらで主導していける流行を作りたいです。
中西:今回の海外戦略とは具体的にこの3年、5年で展開していって5年後の売り上げはこれぐらいのマーケットになっているというイメージを描いているというよりは、一番最初の展示会出展に目標をおいています。5年後の目標それ自体はまだまだ精査が必要ですが、展示会やショーはお祭り的な側面があるので、それをまず体感するのも「いい経験になる」と思っています。あまりビジネスライクには考えないようにしていますが、とはいえ、出展には時間と費用もかかるので、自分たちが耐えられる予算組の中で、自由に我々が「楽しい」と思うことを提供したいですね。
____中西社長やアルフレッドさんは海外の展示会を見てきていて、海外の商品に関して知見があるはずです。その中で「何が足りない」と思ったのでしょうか。我々がやるべきことは何だと思われましたか。
アルフレッド:クオリティですね。向こうの商品は良いところもあるんだけれど、やっぱりクオリティがどうしても低いんですよね。
____そのクオリティを強みにして、日本から輸出したいという感じですかね。
中西:クオリティクオリティと言うけれども、海外では日本で必要とされるクオリティが必要じゃなかったりもするんです。そこが過去の日本企業が、海外で苦戦した理由だったりもしますよね。日本の製品って機能の多さや品質は、今でも世界のトップクオリティだとは思います。例えばスマホなんかもそうですが、中の技術はほとんど日本のものですよね。iPhoneを例にとれば、プロダクトの母体はアップルであり大きな利益を得ているのはアメリカです。
____はい。
中西:いま世界で必要とされているクリエイティブな発想やビジネスはやはりそこですよね。いくら先の先端技術を磨いても、それをどう社会に貢献できるかアウトプットの道筋があってクリエイティブな発想がないと「勝てないだろうな」と思っているんです。僕自身にはその能力があるわけではないので、だからこそとことん日本を売っていく方向に「もっていきたいな」と思っています。
____たとえばどんなことでしょう。
中西:日本のトラック文化もすでに半世紀以上、経っているわけです。僕もそうですが子どもの頃はデコトラという接点があって「派手だな。すごいな」と職人技の領域に関しては感銘を受けながらも、「ちょっと違うな」と思ってきたわけです。でも良いところは分かっているので、そこをいかにボルボに持って来れるかというのを、次の展開にしていきたいんですよ。
____なるほど。
中西:それこそ来年のトラックショーも 2台、3台とデモ車を作る中でも「絶対これにこだわりたい」と言う思いで造ったのは、今までは完全なユーロスタイルですよね。ヨーロッパのマーケットで考えれば「そのまんま真似だよね」と言われてしまうスタイルなんです。日本では斬新かもしれないけれど、欧州にとっては当たり前のカスタムです。
____そうですね。
中西:あらためてここから日本のオリジナルを造っていく。それが成功するかどうかはやらなければ分からないから、あとはFEチームの感覚を信頼して我々が「良い」と思うものをどんどん取り込んで行きたい。それを情報化して世界へ出して行く。そこが「最初に取り組むべきことかな」と思いますね。その先は本当にわからないですね。
____ここまで話を聞かせていただいて思うのは、もともとデコトラが大好きでトラックに乗っていて、今はスカニアやボルボに乗ってカスタムしている日本のお客さんもいますよね。例えば外見はユーロだけど、中は金華山を張り巡らすとか、そういう和洋折衷スタイルのお客さんもいます。だからこそ、ユーロスタイルのジャパネスクというのは逆に国内市場も開拓していく気がします。
中西:そうですね。例えばヨーロッパのトラックのカスタムイベントを見ても、感覚は日本のデコトラと一緒で、とにかく飾りつけられたトラックがグランプリに輝いていたりするわけです。こういうスタイルも世界的に受け入れられるんだなと。大半は全体が黒で統一されていて洗練された、我々日本人から見ても直球のユーロスタイルのトラックなんですが、そういった意味ではやりがいがあります。土俵があるのは分かっているから、「何かしら反応は得られるだろう」という確信はあるんです。そうだとしたらファストエレファントの感覚が向こうでどう受け入れられるかです。そこは考えても仕方がないから、とりあえず見てもらいたいですね。
____面白いですね。
アルフレッド:夢がありますよね。
____出展の次の戦略としては海外向けのグローバルサイトを作るようなイメージでしょうか。
中西:そうですね。基本はそっちになると思います。具体的な販売先としてはECですね。 現実的な販売の方法としては現地のインポーターとのやり取りになるでしょう。もちろん直接販売のECを持ちながら同時にやっていくと思います。ある程度のまとまった量となると、インポーターの展開の仕方に委ねるでしょうね。そこはお互い協力してやっていく。今度は我々がメーカーの立場になります。もちろん輸入販売する逆も然りです。そこも踏まえて展示会というのは、現地の代理店だったり販売店だったりディーラーさんも顧客としてくるから、展示会が全てのキーになってくるんですね。
____ちなみに最初の展示会はいつぐらいになるでしょうか。
アルフレッド: 来年の7月ぐらいを予定しています。今のところセノプロさんとのコラボで出展したいと考えています。
中西:我々としても具体的に、この商品でマーケットシェアを獲得していこうという商品を作るよりは、ジャパネスクに振りきった方が「受ける」と思っています。
____よく見ると「いいものだね」というクオリティ勝負だと伝わりにくいということですよね。
中西:そうですね。例えば有名ブランドのオートクチュール(レディメイド、1点モノ)のファッションショーでは普段着になるような服は出てきません。僕はトラックショーに出展する車というのは、オートクチュールの立ち位置であっていいと思うんです。だからこそどこか振り切ったトラックを造るつもりでいるんです。前回、後ろをスポーツカーにしてしまったトラックもそうだし、次回のトラックショーも振り切ったトラックを考えています。全く実用性はないかもしれませんが、誰もやったことのないようなカスタムを見せていきたい。ヨシノ自動車としてはアイデアもそうだし、それを実現する職人的な技術にしても可能なポテンシャルを示したいわけです。そこはショーであって展示会ではありませえんから。
____トラックショーも来年ですから、ビックイベントが二つ重なるんですね。
アルフレッド:今年も「みんなのトラックフェス」がありますよ。
中西:今年は「みんなのトラックフェス」をさらに進化させられると思いますので、期待していて欲しいですね(笑)。
____セノプロさんもそうだし、先日取材させてもらったEUトレーラーズさんしかりですが、「みんなのトラックフェス」で繋がっている皆さんは独特の連帯感がありますよね(笑)。
アルフレッド:そうだと思いますよ。ファストエレファント、セノプロさんにしてもスタイルの違いはあるけれど、どうお互いを繋げるかというのは常に考えているところですから。
中西:「みんなのトラックフェス」はスタンス次第だと思うんですよね。どれだけ続けていくことができるか。縄張り意識だったり島国根性って日本はすごく強いと思っていて、個人的に私はそれがいいと思えないんですよ。スタイルの価値観も是々非々で良いと思うんですよね。良いところは良い、悪いところは悪いで良いと思うんです。良いところは取り入れるし、悪いところは取り入れない。
____それで良いじゃないか、と。
中西:そのジャンルが良いとか、悪いとかじゃなくて個人個人がジャンルの枠組みに捕らわれることなく、「自分らしくカスタムしてればいいな」と思うんです。トラックドライバーのイメージも、ゴミの投げ捨てやあおり運転など、ごく一部のトラックドライバーの悪行がクローズアップされて全体のイメージになってしまってるところは「どうしてもある」とおもうんですよ。要は是々非々で判断したい。トラックのスタイルもユーロやデコトラというカテゴリーで分けるのではなくて、良いものは良い、悪いものは悪いで個人がそれぞれ判断していけばいい。僕自身は僕自身に理解ができなくても、自分だけのこだわりを強くもっている人を尊敬するんです。
____テーマは究極の個人主義なのかもしれませんね。そこは今回のパーツの話ともつながりますね。みんな好きにやればいい。自分たちも好きにやるからということですね(笑)。
< 対談一覧に戻る