株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第98回

株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役 営業部 部長 山崎 陽平様

株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役 営業部 部長 山崎 陽平様

「新アリーナ建設のその先へ! プロバスケットボールクラブが“街づくり”に関わる未来とは」

今月の鍵人訪問記は、神奈川県川崎市に本拠地をおくBリーグの強豪、川崎ブレイブサンダース様の山崎陽平様にご登場いただきました。昨年よりヨシノ自動車が協賛会社に名を連ねることになり、今回の対談であらためてスポンサードの真意と地域スポーツの魅力を掘り起こしていきます。2030年には新アリーナ建設が予定されており、その未来像が今後どのような夢や期待を抱かせるでしょうか。その壮大な建設計画にはスポーツクラブの「街づくり」という大きな目的も含まれています。未来に向けた取り組みになる、ヨシノ自動車と地域スポーツとの新しい歴史が始まりました。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山崎 陽平(やまざき ようへい)様
株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役 営業部 部長。1987年 神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャーの起業を経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。大手企業のアライアンス、並びにアニメIPコンテンツのゲーム化を中心としたライツマネージメントに従事。2018年川崎ブレイブサンダースの事業承継時から現職。法人向けスポンサーセールス及びパートナーアライアンスの責任者を務め現在に至る。

戦略的なスポンサード

ーーーまずヨシノ自動車は、なぜ川崎ブレイブサンダースへのスポンサーを決めたのでしょうか。経緯を教えてください。

中西:経緯は分かりやすいですよ。弊社が川崎で創業して法人として 66期目になります。おかげさまで川崎で、ほぼ70年にわたって会社を経営させていただいています。そして「より地域に根ざした会社作りをしていこう」と5年前ぐらいに改めて、その内容を経営方針に追加しました。もともと会社として地元志向はあったのですが、それを言葉に表現できていなかった部分がありました。

ーーーなるほど。

中西:それまでも弊社がDeNAさんの横浜ベイスターズを応援していた経緯があり、私自身も個人的なファンなのでスポットのスポンサードも行ってきました。そのつながりがあって、川崎ブレイブサンダースさんは母体が同じDeNAさんな上に川崎とのつながりがあります。DeNAさんを通して、地域に根ざした企業を目指す中で「表現をしていきたいこと」が今回のスポンサードと合致しました。

ーーーこれまでのDeNAさんとの関わりに関して、どういったスポンサードを行ってきたのでしょうか。

中西:年間協賛というよりはスポット協賛で、広告とセットのシート提供だったり、それを弊社のお客さんに配ったりしながら「一緒に応援していきましょう」という空気をつくってきました。そういうコンテンツ企画はもう7、8年ぐらいやってきました。

ーーーモータースポーツにおけるスーパーGT関連などですよね。

中西:そうですね。その辺はもう僕の趣味からスタートしているスポンサードなんですよ。

ーーー今回の川崎ブレイブサンダースへのスポンサードは、もっと戦略的なんですね。

中西:そうですね。戦略的であることも「含む」という感じでしょうか。

ーーーさてあらためて、川崎という地域との繋がりを「強化していきたい」と考えた理由はなぜなのでしょうか。

中西:弊社はトラック販売を主力事業としていて70年ほど操業していますが、ここ10年から15年ぐらいはネット販売が主流になっていました。僕が入社した20年前はやはり 地元のお客さんが8割、それ以外のお客さんが2割みたいな流れだったのが、現在ではほぼ逆転しています。地元が2割、ネットのお客さんが8割のイメージです。良く捉えればそれだけ商圏が広がったということですが、地元のお客さんの件数それ自体も減っているんです。外を見すぎて、足元が手薄になってしまった。そもそも我々の商売の本質として、地元がおろそかになっていくのは、「良くないね」という反省がありました。

これまで地域スポーツがリーチ出来ていなかった層とは

ーーーなるほど分かりました。さっそく山崎さんにお伺いしたいのですが、川崎ブレイブサンダースが考える、地域貢献だったり地域密着の理念をお聞かせください。そもそも川崎にはJリーグのサッカークラブである川崎フロンターレというロールモデルがあって、地域密着という点においてはリーグでも突出した存在になっていますよね。

山崎:そうですね。まず川崎には川崎フロンターレさんがいますので、我々は川崎フロンターレさんがやっていることと「同じことをやっても仕方がない」と思っています。例えば露出箇所の奪い合いだったり、ファンの奪い合いもしたくありません。それとは別のフロンターレさんがまだリーチできていない子どもたち、特に女の子たちだったりを、バスケをきっかけにプロのスポーツ観戦の入り口にすることができると考えています。我々もこれまでDeNAで野球事業(横浜DeNAベイスターズ)を開始した当初は、女性やご家族のお母さんといった層へのアプローチは非常に大変でした。

ーーー横浜DeNAベイスターズの試合観戦に誘導するということですね。

山崎:そうです。それはなぜかというと、女性は野球を子どもの時にやる機会がほとんどなかったということが、ベースにあります。その点でバスケは男女ができるスポーツという意味で、サッカーや野球よりもなじみが深くて、経験したことがある割合が高いスポーツなんです。我々が7年前に東芝さんから引き継いだ時に、スクール生が20~30人ほど在籍していました。現在では、その数が2500人を超えています。コロナ禍を経てもどんどん伸びていて、男の子が多いものの女の子もたくさんいます。とどろきアリーナの会場で来場するファン層を見ていただければ分かるのですが、女性がとても多いのが特徴です。ですから、これまでの地域密着型スポーツでターゲットにしていたお客さんとは違う、新しい層へのアプローチを試みていきたいと考えています。

ーーーなるほど。

山崎:それがまず川崎の中でありたいプロスポーツクラブとしての姿なのと、例えば商店街にフロンターレさんがタペストリーを掲げているところに「じゃぁ僕たちも同じことがしたい」と言いだすのは違います。ではDeNAというインターネット企業だからこそできること、たとえばYouTubeやTikTokといった、「若者向けの動画SNS、デジタルマーケティングを強化していこう」と取り組んできました。同じ川崎にあるスポーツクラブとして、川崎フロンターレさんとともに盛り上げアドオン(拡張)していくような取り組みをしていきたい。それが地域に対する考え方のベースとしてあります。

新アリーナ建設のインパクト

ーーーなるほど。

山崎:そして最終的に我々は新アリーナの建設を計画しています。とどろきアリーナは武蔵小杉の駅から少し距離がありますが、やはり駅から近いに越したことはないですよね(笑)。これからのスポーツは飲食が充実していたり、法人様が使えるホスピタリティだったり、プレミアムプロダクトのようなサービスを充実させると言った時に、「アルコールを飲むから車で来れない」というケースは不利になります。だからこそ「電車でいきましょう」ということで、京急川崎の駅から歩いて2分の場所が新アリーナの場所になります。

ーーーそうですね。

山崎:これは僕らにとって、とても大きなコンテンツになります。川崎の中でもラゾーナ側(西側)は賑わっていると、よく言われます。それにくらべて東側は川崎チッタさんとかはあるものの、昔ながらの商店街があって大型商業施設とは対照的ですね。その中でひとつ盲点だった多摩川付近の、今まで人が集まらなかった場所に人が集まるようにするためには「どうしたら良いか」と考えているところです。

ーーーということは、京浜急行の川崎駅から多摩川にかけて開発していくということですか。

山崎:まだなんとも言えないですが、新アリーナ建設をきっかけに「川沿いに行きやすい導線を作りたい」という想いもあります。今はあの川辺には何もないんですが、とても気持ちがいい場所なんですよ。

中西:そうですよね。

山崎:海外に行くと水辺で憩えるカフェなどがありますよね。川崎の大きな資源としては多摩川がありますので、そこをうまく活用していく街づくりに寄与していきたいんです。それが今のところ、最終的な狙いですね。DeNAグループとしては「スポーツの力でひととまちを元気にする」というコンセプトがありますので、現段階でのとどろきアリーナでの川崎フロンターレさんとの共存共栄、そして次のフェーズとして新アリーナ建設ということになってくると思います。

スポーツクラブが「街づくり」に関わること

ーーー多摩川の活用という意味ではイベントや文化事業も最近、増えていますね。東京側や川崎側でもオクトーバーフェス(ビアフェスタ)やキャンプフェスタのようなイベントは増えてきていて、「とてもヨーロッパ的だな」と思って見ています。DeNAさんがそういった街づくりに参画していくのは非常に面白いですね。

山崎:スポーツクラブが街づくりに関わるということは、チーム運営とはかけ離れたことに思えるかも知れません。川崎ブレイブサンダースがとどろきアリーナで年間試合をする日数は30数日しかありません。試合をやっていない時に、どれだけブレイブサンダースを感じることができるかというのが大事なんです。最終的にそれは試合のあるアリーナなんですが、アリーナが駅に開かれていれば、試合がない日でもアリーナのカフェやレストランに行くことができます。そしてコンサート使用も考えれば、エンターテイメントと人々の憩いの場になることができる。今やっている30数試合という点を線にして、面にしていきたいんです。365日、川崎でブレイブサンダースを感じられる街を目指していかないと、「バスケはどこでやっているの? いつやっているの?」という、スポーツクラブとして常識になって欲しいことが周知されないまま、ずっと訊かれ続けることになります。スポーツクラブが街づくりに関わるということは、海外だと当たり前になっているんですけどね。

ーーー了解しました。そういった中で協賛会社の皆さん達にはどういったアプローチだったり、何を還元していきたいと考えていらっしゃいますか。

山崎:私たちも横浜DeNAベイスターズを中心に、長年にわたってスポーツビジネスをやらせていただいている中で、スポンサーと言ってしまうとどうしてもお布施をいただく関係のようなイメージに捉えられかねません(笑)。そのイメージが大きいですよね。

ーーーよく言われるタニマチ的なサポートですね。

山崎:それは日本の歴史伝統なんですが、ビジネスという言葉がつく限り、いただいたご援助に関しては対価を提供していかなければいけません。そこを真っ先に考えているところです。スポーツクラブが持っている集客力というところでお役に立てるかもしれませんし、メディアとしてスポンサー様の知名度をあげるお役に立てるかもしれません。もしくはブランドイメージそのものを創っていくことができる媒体だとも思っています。関わる選手にもアプローチはできると思います。関わる川崎市に対しても、我々が間に入ることでうまく話が仲介されるケースもあると思います。我々、スポーツクラブは地元の皆さまから託された公共的側面のある存在だとも思っていますので、うまく使っていただける要素がたくさんあると思うんです。ですから、スポンサー様にはご協力いただいた対価はしっかりお支払いしたいのと、スポンサー様ご自身で「我々を使い倒して欲しいな」と考えているんです。

コンテンツとして川崎ブレイブサンダースを使い倒して欲しい

ーーー川崎ブレイブサンダースというコンテンツを、ということですね。

山崎:そうです。我々側の担当者と上手い関係を作りながら、こんなこと出来ないか、あんなこと出来ないかとアイデアを膨らませる、川崎市や川崎ブレイブサンダースを一緒に盛り上げるパートナーさんになってもらえると考えています。ですから、一方的にお金をいただいて「ありがとうございます」というような関係ではなくしていきたいです。日本でも、あまりそういうスポンサードの形はなくなってきたような気がしますね。

ーーー確かにスポンサードという関係よりは、パートナーと言うか、お互いが同じ目的のために手をたずさえる協力関係というニュアンスに変わってきていますよね。

山崎:お金を出しているだけだと、「損をしている」と感じられた途端に関係が終わってしまうと思うんですよね。相当な金額を頂いているので、損だとは絶対に思われないように我々も頑張っているつもりです。持てるものすべてをご提供して、使い倒していただけるように末長いお付き合いをしていきたいなと考えています。

ーーー了解しました。さて昨今よく言われていることですが、Bリーグの集客が非常に好調です。それも女性層をつかんでいる、という話を聞くのですが、いかがでしょうか。

山崎:まず我々が参画したのが2018年です。その当時はBリーグが3年目でした。Bリーグが始まる前は、バスケットボールでは野球とサッカーほど盛り上がった「プロリーグ」と言えるリーグがありませんでした。お金を払ってバスケを見に行く人が、圧倒的に少なかったんです。そこでまず2016年にBリーグが始まったというのが大きなきっかけになりました。お金を払ってでも「バスケを見に行こう」と。その中で5000円のチケットを、バスケの試合を見に行くためだけの観戦料金だけにしてしまうのはもったいないので、ビールが飲めますとか、スポンサーさんならスポンサー同士の交流ができますとか。そこで「ビジネスが加速します」というようなアプローチをしてきました。

全方向的に盛り上がりをみせるBリーグの現在

ーーーなるほど。

山崎:まず川崎ブレイブサンダースはそういった企画をどんどん仕掛けていっています。現在この取材しているスペースもラウンジで、試合が始まる前にちょっとビールを飲んだりできるスペースにしています。この上にはVIPルームがあって年間で契約されているお客様が接待に使われていたり、まずBリーグの試合が年間30試合あるというのが大きなコンテンツです。

ーーー確かにそうですね。

山崎:それと、バスケットボール日本代表が強くなったということが大きいと思います。日本代表がワールドカップに行ったのが20数年ぶり、オリンピックに出たのが40数年ぶりということで大きな話題になりました。

ーーーなるほど。露出の増大とともに客数も増えたんですね。

山崎:はい。それはなぜかと言うと「出場するからメディアが取り上げる」、それにともなってテレビ放映されるという流れなので、ファンの予備軍が「あ、こんなに強いんだ。バスケって面白い」と行動する流れが出来上がります。それに加えて現在、日本選手の中にはNBAプレーヤーもいるので、八村塁選手や河村勇輝選手が海外(NBA)で活躍していますよね。昔は田臥選手も在籍していましたが、特にいま八村選手は揺るぎないスターティングメンバーとして認知されているのは本当にすごいことです。

ーーー確かに同じスポーツとはいえ隔世の感がありますね。

山崎:そこにスラムダンクの映画の大ヒットがありました。

今までアプローチ出来ていなかった層へアプローチする

ーーーそうですね。映画『THE FIRST SLAM DUNK』は国内のみならず海外でも大ヒットしました。バスケは現在の時勢に乗っているスポーツですね。さてそんな人気コンテンツを得て、ヨシノ自動車は今後どういうコラボレーションを想定しているのでしょうか。

中西:弊社がいろんなスポンサードをやってきた中で、川崎ブレイブサンダースさんとのコラボレーションはちょっとニュアンスが違っています。まずイメージの部分で地域に根ざした部分を強調していきたいということと、それをブランディングしていくことなんですが、実務的に言うと人材の中長期的な確保の点で「どうつなげていくか」ということを立案計画中なんです。

ーーー人材確保ですね。

中西:特に初年度となる今年はそこに重きを置いています。協賛を始めてから実際にもう半年ぐらい経っているのですが、ブレイブサンダースさんのイベントに一緒に出たり、ブレイブサンダースというコンテンツを利用して学生を集めたり、そういう試みもしていて、今まで接点のなかった学生たちにもアプローチできている感触があります。

ーーーそれは実際にもともと川崎ブレイブサンダースの名前を知っていて、チームのことをよく知っているようなファンが、ヨシノ自動車の存在に気づくような感じですか。

中西:そうです。それは想定内ですが、面白い例がありました。ブレイブサンダースは女性や子どものファンが多いという話がありましたよね。本人が直接ではなくて、お母さんが試合に来られていて、イベントの中でヨシノ自動車が協賛していることを知って「ヨシノ自動車という会社がインターンをやっているらしいよ」と子どもさんに声掛けをしてくれたらしいんです。「あなた行ってきなさいよ」ぐらいの感じだったんでしょうね(笑)。このケースは今まで絶対になかった流れなんですよ。そのエピソードを聞いた時にBリーグぽいというか、「バスケットボールならではなのかな」と感じましたね。

松尾:そういう方は二人いましたね。自分はバスケットボールをやっていないけれども、他の家族がバスケをしていて「みんなファンだから私も行くよ」と。そこでX(旧Twitter)でインターンの情報が流れてきましたという方でした。

山崎:そうですか。今のお話を聞いてびっくりしたんですが、我々の初期のマーケティングの時にやはりお子様のいるお母様に対するアプローチをしたいなと考えていて、よくお子さん向けに小学生の招待をするんですね。子どもが小学生でブレイブサンダースのチケットをもらったから「お母さん行こうよ」となります。そうするとお母さんと子どもで行くんですが、お母さんがファンになっちゃうのです(笑)。この現象を考えた時に、「まず選手が恰好いい」ということがあるらしいんですよ。

「イケメン」と「筋肉」というパワーワード

ーーーそれは間違いないでしょうね。

山崎:我々が言うのもなんですが、川崎ブレイブサンダースには恰好いい選手が多いんです。それとバスケのユニフォーム姿がかっこいいんですよね。アンケートを行ってみた時に「イケメン」と「筋肉」というキーワードをファンから直接に聞きまして、人気の秘密にはそういうストーリーもあるのだと理解しました。

ーーーユニフォームのタンクトップ姿は男性の目から見てもかっこういいですからね。

中西:やはりビジュアルというのは大きいでしょうね。

松尾:それとサッカーや野球との違いって、Bリーグの場合は応援団があるかないかだと思っているんです。熱狂的なコアファンになってくると、普通の人たちが近寄りがたい雰囲気が出てきてしまいます。Bリーグの場合はそんなことはなくて、知らない人でも楽しく応援できる。ショーを見る感覚で参加できるという点も、女性が惹きつけられる点なのかなと思います。

ーーーなるほど。サポーターの団体とかもないんですね。

山崎:あまりないと思いますね。さらに女性を惹きつけるポイントが2つあると思っていて、比較的女性は屋外で寒いのが苦手なんですよね。雨が降っていれば見に行きたくないですし、自分が競技を経験していないと「なぜ雨に打たれながら試合観戦をしなければいけないか」という点が理解できないそうなんです。だけどそれがBリーグのようなアリーナの中であれば、快適に観戦することができます。

ーーー確かにそうですね。屋外か屋内の違いですね。

山崎:アリーナの中は冬でも暖かいんですよ。それと日焼けもしないです。

中西:日焼けは多分、めちゃくちゃ大きいと思います。我が家の妻と娘を見ていれば分かります。レース観戦も外なんですよね。一緒に行ってくれてるのは有難いんですが、いつも「早く中に入りたい」と言われてしまいます。

一同爆笑

中西:「陽に当たらなければ行く」という具合なんですよね (笑)。

山崎:そうでしたか。もうひとつBリーグならではの理由がありまして、バスケットボール自体がコートと観客の距離が近いんです。迫力が感じられて、どこの席からもコート上で選手が体をぶつけ合っているのが分かります。この点はサッカーだと会場によって陸上のトラックなどが間に入ることで、客席と離れすぎていてどの選手なのか分からない時がありますよね。野球も実はそうなんですよ。分かってくると外野の先から投手が投げる球種まで分かるんですが(笑)、初めてその競技を見に行った人には「遠い」ということはハンデなんです。

試合観戦は「家族団らん」の貴重な機会になる

ーーー確かにそうですね。ちなみに今のとどろきアリーナの収容客数は何名程度なんですか。

山崎:5000名程度です。

ーーー意外に大きいんですね。次の川崎の新しいアリーナの収容客数は何名程度なんでしょうか。

山崎:バスケットボールの使用で1万2000名程度を予定しています。

ーーーそれはすごいですね。

山崎:日本のアリーナの中でも大きい部類に属すると思います。

ーーー1万2000名ものお客さんが迫力あるエンターテイメントに触れられるというのは大きいですね。ヨシノ自動車としても今後の展開が楽しみですね。

中西:これまでも話した通り、企業スポンサードは自分の趣味の延長にありましたが、川崎ブレイブサンダースさんに関しては費用対効果を期待しています。今後どうコンテンツを作っていくか、そのコンテンツをどう生かしていくか。完成は5年後かな。あっという間ですね。

山崎:あっという間ですね。

ーーーそのコンテンツの活かし方について是非、ヨシノ自動車の社長室長である松尾さんにお聞きしたいですね。

松尾:私にとってもこの川崎ブレイブサンダースというコンテンツは、天から降って湧いたような仕事なんですよ(笑)。逆にやってみることによって、「こんなことできるんだ」「あんなこともできるんだ」と驚きながら勉強している状態なんです。当然、企業からすると「結果を出せ」ということになりますが、ひとまず広告という点で考えてみました。東芝のように日曜の夕方はサザエさんを放映することによって、東芝の家電がイメージ付けられ、家電が売れたというような流れがかつてはあったと思います。でも今は、テレビを見る家庭は少なくなってきていますよね。家族団らんのメディアが変わってきているんだと思います。

川崎ブレイブサンダースに、いかに掠るか(かするか)

松尾:そうなった時にバナーのような広告を展開するだけではダメだと思ったんですね。その状況を今のネット状況に照らし合わせると、メディアは無くなったけれどコンテンツはあるんです。だとすると、どれだけこのコンテンツに対して掠る(かする)ことができるか、ヨシノ自動車として掠ることができるか、というところを考えました。そしてインターンシップというアイデアが生まれました。このインターンシップで、ブレイブサンダースを応援しましょう、スポンサー体験もしてみましょう。そうしたら企業体験もできるし、ブレイブサンダースを応援することもできます。こういうコンテンツを1個1個、考えていくつもりです。母体がDeNAさんだけあって、ネット戦略はとてもしっかりされてらっしゃいます。

ーーーそうですね。

松尾:たとえばヨシノ自動車にはデザイナーがいるので、ステッカーを作ってみました。これも1つの掠り方なんです。ステッカーを配布しようとすると人が集まってきます。我々のスタンスとしては、応援する人をさらに応援したい。これを続けていくことが「スポンサードの形なんだ」というのに最近、ようやく気づいたんですよ(笑)。そうするとヨシノ自動車って面白いことをやっている会社なんだな、何をやっている会社なんだろう?トラック屋さん?と自然に興味が繋がっていくはずなんですよね。そこを期待しています。

勝敗に一喜一憂したくない!?

ーーーちなみに社員ですでに川崎ブレイブサンダースのファンという方はいたんでしょうか。

松尾:はい。実はファンがいたんです。意外な社員が「チケットありますか」と聞いてきました。実はうちの息子がブレイブサンダースのユースで、バスケを習っているという話なんですよ。

ーーーそうなんですね。

松尾:同じように自分の息子がブレイブサンダースのユースにいて、レンタカーの契約に行った時に「ユースのコーチがいました」とか。実は「ファンクラブに入ってます」とか掘れば出てくるんです(笑)。彼らの生活の中にブレイブサンダースはすでに入っていたんです。会社でこそ共通の話題にはならないけど、子どもと親とその友人といったコミュニティの中に、バスケだったりブレイブサンダースのファンだったり、という地元の繋がりがあるんですよね。それを初めて知りました。

ーーー素敵ですね。これから松尾さんや中西社長がブレイブサンダースの勝敗に一喜一憂するような毎日が始まるんですよ(笑)。

松尾:でも聞くと、そうでもなさそうなんですよね。多分なんですけど、勝敗じゃないんですよ。僕の意見ですが、男親というのは勝った負けたが好きなんですよ。

ーーーでは一方で女性ファンは……。

松尾:女性ファンはそこで盛り上がってわいわいするのが好きなんですよ。子どもと一緒にわいわいする口実で試合に行きたい。日曜夜の団らんをここでやるんですよ。

ーーー勝敗は一旦置いとくと。

松尾:勝敗はいいんですよ。スポンサードする人って男性が多いのでその辺が分かってないんですよ。ですから、今回ヨシノ自動車の社員向けに言ってるのは「チケットをあげるから無理やりにでも家族を誘って行きなさい」と。そしたら「びっくりするぞ」と。反抗期だった子どもの目の色が変わり、会話がなくなっている奥さんとの会話も弾むぞ、と(笑)。

一同爆笑

松尾:本当にそうなんですよ。それぐらいの面白さを感じるんですよ。

山崎:嬉しいですね、はい。

ーーースポーツイベントの良いところって、そこなんですよね。勝つか負けるかは別として、ホームで試合がある日はお祭りのように盛り上がっているんです。

中西:そうですね。勝負にこだわるファンももちろんいらっしゃいますが、僕もレースも野球も「場が楽しければいいな」とは考えますが、勝負にそこまでこだわってない気がします。つい最近あったドジャースとカブスの試合も大谷さんが出れば大谷さんを応援するし、どちらのチームを応援するかじゃなくて、応援したいポイントで応援するというか。

松尾:おそらくショーを見る感覚なんですよ。劇団四季を見に行くとか、ライブを見に行くとか 。

中西:僕もこのスポンサードが決まる前に一度、試合を見に来たんですが、それをすごく感じましたね。「エンタメだな」って。初めてだったけど純粋に「楽しい」と思ったし、会場の雰囲気作りもちゃんとされていたし、DJもいるし、マスコットもサービス精神旺盛だし、全体の一体感があります。敵と味方が分かれている、という雰囲気もなかったし。あれは不思議な感覚ですよね。

ーーーアウェー席はないんでしたっけ?

山崎:一応ありますね。ただそこまで野球やサッカーに比べると厳密なものではないですが。

松尾:ハコ(チーム全体)推しや選手推しの人もいるし、ロウル沼と言ってブレイブサンダースのキャラクター好きの方もいます。あとIRIS(アイリス)と呼ばれる、チアリーダーズも人気です。その人気の多様さが「すごいな」と思っています。

勝ったときの喜びをみんなで分かち合いたい

山崎:その辺の話をちょっとまとめると、我々はプロスポーツクラブとしてバスケをやる会場を演出や飲食なども含めて総合的に盛り上げる、それが価値になっているので、「勝った負けた」ではないところでも「勝負はしていきたい」と考えています。それは勝った負けた以外ではなくても選手がかっこういいから満足するとか、もしくはビールがおいしいからとか、アリーナグルメがおいしいからとか、IRISが可愛いですとか、マスコットがいるので子どもにどうしてもマスコットに会わせたいとか。それで来ていただけるのでも、もちろん大歓迎なんです。それがあった上で、やっぱり「勝った負けた」を楽しんでいただきたいんです。

ーーーそうですよね。

山崎:例えば負けが込んでくると、「応援するのは勝った負けた」ではないというご意見に助けられるんです。どうしても負けた時には「他にも魅力ありますよ」って言いたくなるんですが(笑)。最終的に我々はスポーツクラブなので、負けていいとは思わないし、目の前の勝負は勝ちに行きたい。そのポリシーを絶対に曲げないと思います。勝てる常勝軍団を作るために、スポーツクラブを頑張っていきたい。勝った時の喜びをみんなで分かち合えるようなものに取り組んでいきたいと考えているので、勝敗関係なく「楽しい」というところから入っていただいて、最終的に勝敗に熱狂していただけるのかなと考えています。スポンサーさんにも1年目から2年目、 3年目、4年目、5年目となってくると、「山崎さん、ブレイブサンダース勝てないじゃん」って言われるようになるんですよ(笑)。試合を見に来られて、顔を真っ赤にして帰っていかれるスポンサーさんもいらっしゃいます。

ーーーその社長さんは、クラブと共に目的を共有しているんですね。

山崎:はい。僕もまたそんなときは「申し訳ない」と思うんですが、同時にすごく嬉しいんですよ。本気で川崎ブレイブサンダースのことを考えて応援してくれているんだって実感します。これは時間がかかるというか、長いお付き合いになると思いますので。

ーーーそこですね。地域スポーツはその熱ゆえに、おいそれとやめられなくなってくるものですからね。

山崎:はい。ずっと負けていると、スポンサードする気にもならなくなってきます。ですからやっぱり勝敗にこだわらない究極の形は、アリーナなんです。川崎アリーナに行けばバスケをやってなくても「ビヨンセが来る」とか、地元・川崎だから「BadHopがやる」とか、「みんなで盛り上げていこうよ」というところを目指していきたいなと思っています。 あと地域に関して言うと、同じ川崎で活動している企業さんとともに「川崎の誇りになりたい」と考えています。「ブレイブサンダースは川崎にあり」という活動を一緒に作って行って、一緒に「誇らしく思いたい」と思っているんです。

一緒にアジアNO.1のスポーツクラブを目指したい

ーーーなるほど。

山崎:横浜と東京に挟まれている川崎のアイデンティティは、僕は鶴見で生まれているのでよく分かるんです。シビックプライドと言いますが、川崎フロンターレさんと共にその川崎への地域愛を育み、ニューアリーナを建設したい。羽田からのアクセスも抜群で外国人タレントが常にコンサートしているような場所を本拠地にした、「アジアナンバーワンのスポーツクラブです」というところまで導いていきたいんです。そこでスポンサー様の皆様たちとも win-win の関係を続けていくことによって、長いお付き合いが可能になるのではないかと考えています。そこを我々は目指したいところですね。

ーーー素晴らしいですね。

山崎:あとは子どもたちが「ブレイブサンダースの選手になる」というような夢を手伝っていくというところもありますので、子どもたちの憧れになる、魅せるというところもスポーツ選手の魅力だと思うので、そこにも注力したいですね。それと我々、フロントスタッフも「スポーツクラブで働きたい」と思っていただけるようなクラブになりたいなと考えています。その辺は、我々はベイスターズでいろいろ経験していますので、役立てる知見は多いと考えています。

山崎 陽平(やまざき ようへい)様
株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役 営業部 部長。1987年 神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャーの起業を経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。大手企業のアライアンス、並びにアニメIPコンテンツのゲーム化を中心としたライツマネージメントに従事。2018年川崎ブレイブサンダースの事業承継時から現職。法人向けスポンサーセールス及びパートナーアライアンスの責任者を務め現在に至る。

川崎ブレイブサンダース

< 対談一覧に戻る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加