株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第63回

デザイン&ピンストライプ KEN THE FLATTOP 様

デザイン&ピンストライプ KEN THE FLATTOP 様

「カスタムの究極は“手描きペイント”!ジャパントラックショーで魅せる真髄について」

ボルボトラックのショウカーとして「アベル」が制作されてから4年が経ちました。巨大なキャンバスに施した手描きのフレイムス(ファイヤーパターン)は大きな話題になり、ピンストライプはファストエレファントのデザイン面を支える大切な要素となりました。今回ご登場いただくアーティストはもちろん我らがKEN THE FLATTOPさんです。今年(2022年)の5月に行われるジャパントラックショー2022ではライブペイントも披露するKENさん。ピンストライプの筆一本による手描きの価値や温もり、地元の横浜や手描きペイントの将来についてあらためてお話を伺いました。

編集・青木雄介
WEB・genre inc.

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KEN THE FLATTOP(高林 憲)様
神奈川県横浜市磯子出身。イラストレーターとして、Tシャツ、ポスター等のデザイン、ピンストライパーとしては車、バイク等の他にサーフボードへのペイントを得意とする。2006年、英国Korero Booksより発行された「PINSTRIPE PLANET」では世界各国36人のピンストライパーの1人として紹介される。オリジナルアートはホットロッド、サーフィン、TIKI、日本古来の魑魅魍魎を題材に、アルミニウムボード、スケートボードブランクス、カスタムペイントを施したプライウッド等をキャンバスにエナメル塗料で描く。日曜大工とBBQが趣味。

王道のフレームスから始まった

____KENさんがアベルのファイヤーパターンを描いてから4年が経ちました。それがファストエレファントとの初めての仕事ですよね。KENさんにとって、トラックに描くというのはどんな経験だったのでしょうか。

KEN: 僕は働く車が大好きなので本当に嬉しかったです。しかもあれだけ大きいキャンバスに描く機会はそうないですから。4トンの積載車ぐらいの大きさにはこれまでも描いてきたことはありました。しかも新車でいきなりフレームス(ファイヤーパターン)でしょ。フレームスは僕らピンストライパーの王道です。描く前にヨーロッパにちょこちょこ行く機会があって、ドイツやフランスのトラックを見ていたので、ちょうどタイミング的にも良かったんです。

____ヨーロッパでもフレームスは一般的なのでしょうか。

KEN: ヨーロッパはないですが、アメリカではそれこそアメコミのトランスフォーマーにフレームスが描かれたりしています。最初にヨシノさんのアベルを描くときの打合せでもトランスフォーマーの話が出ていました。アメリカではやはりトラディショナルな柄ですから。それをヨーロッパの新車に落とし込むのも面白かったし、オールドスクールな柄を最新の車に落とし込むのは「アリだな」と思っていました。

____実際に描かれた印象はいかがですか。

KEN: デカいです(笑)。ひたすらデカいですよ。いまだにデカいと思っています(一同爆笑)。

____KENさんはトラックにフレームスを何台ぐらい描いているのでしょうか。

KEN: これまで3台、描いていますね。

トラックに“手描き”を取り入れること

____中西社長としては、一流のペインターやピンストライパーといったアーティストとコラボすることをどう考えていらっしゃいますか。

中西: 弊社はもともと整備や架装がメインです。ペイントと言っても単色だったりソリッドなカラーに塗装するだけです。そこにデザインや柄を入れるなら全部、シールでまかなっていたんですね。個人的にはアメ車が好きだし、欧州をはじめ海外はペイントが派手だし、「弊社でもやってみたいな」と思った最初のタイミングが2017年でした。その時、KENさんをガオさん(鍵人訪問記をぜひご参照ください)から紹介されて動き出したんですね。ちょうど翌年にトラックショーという、いろんな人に見ていただく機会があったから、コンセプトはさておき「とにかくやってほしい」という感じだったんですよ(笑)。

____日本にもトラックに手描きで描く文化はありますよね。エアスプレーで工藤静香さんを描いたり、それ以前は看板屋さんがトラックに大きく絵を描いていました。

中西: アートトラックの流れですね。

____そうです。ファストエレファントは日本のアートトラックとは距離をおいた、いわゆるユーロスタイルです。とはいえ車に対して手描きでデザインを施す、そこに宿る世界にたった1台の貴重性だったり、手描きならではの温もりだったりを大事にしています。乗用車の世界ではアメ車はもちろんですが、ヨーロッパだってロールスロイスにコーチラインを引くような手描きの文化は確実にあるわけです。それも実車勝負の世界と言うか、実際に観るとそのスゴさが分かる。あのフレームスも見れば圧倒されますからね。

中西: そうなんですよ。実際に見られたドライバーの方や経営者の方は驚かれていましたからね。

手描きの思いがドライバーに伝わる

____フレームスの入ったアベルを購入されて、さらにもう一台フレームスのトラックが欲しいと考える経営者の方もいらっしゃるわけですよね。

KEN: 「本当にすごいな」と思いますね。もちろん嬉しいし、ちょうど2018年というと手描きの看板が日本で流行りだしたんですよ。僕らは30年ぐらいやっているんですけど、この文化はなかなか根付かなかったんです。でも2018年から本当に手描きの看板が流行りだして、一般の人たちにも受け入れられ始めました。そこからもう一歩、ピンストライプにも「踏み込んでもらいたいな」と考えていました。

____なるほど。

KEN: ドライバーさんや経営者さんは、知ってそうで案外知らないものです。このデザインは見たことあるけど、手描きで描いてあることは知らなかったとか、そういう層にアプローチできたのはすごく良かったんですよ。描いてるところを見ていただくと「かっこいいね」とドライバーさんに言っていただけたり、それを見て違う注文をしてくれた方もいらっしゃったり。アベルも2号ができたし、相乗効果にびっくりしましたね。

中西: そうなんです。本当に気に入って頂けたんですよね。

____やはり実際に目にすることで印象が変わるんでしょうね。

KEN: ヨシノさんでやられたことは運送会社の方たちが確実に見ているんです。それでたまたま近所の伊勢原の運送会社の社長さんからお仕事をもらったりしました。凝ったデザインではありませんが、その会社はヨシノさんもずっとテーマにしている「若いドライバーさんが長続きしない」という悩みを抱えていました。その会社は全部トラックに続きナンバーが入ってるんです。「888」とか。その番号を車体に入れて、担当者が決まっている車には名前を入れてあげるんです。

____なるほど。

KEN: ドライバーはみんな20代の若者で、そうしてあげるとすごく喜ばれるらしいんです。仕事を頑張ってくれるし、辞めないでいてくれると最初に始めさせて頂いてから、ずっと長い間、その仕事をやらせていただいています。社長さんもそうやってドライバーを大切にしているし、ドライバーもそれを感じている。そういう仕事は本当にやっていて嬉しいですね。少しでもそういうことでお役にたてるならすごく嬉しい。そういう意味でも、アベルをやったことですごく仕事に広がりが出ました。

毎回、売り先が決まっていないショウカー

____素敵ですね。やはり手描きにすることによって経営者側の思いだったりが、伝わりやすくなるんでしょうね。

中西: 正直にいうと、あのアベルを僕とアルフレッドは「これいいね。かっこいいね」と言ってはいるものの、営業サイドは「この後、どうするんですか?」って言っていたんですよ(笑)。僕たちはひたすら「大丈夫だよ」としか言わなかったですが。

____そこを推し進めたのは本当にすごいですよ。

KEN: すごいと思いますね。毎回、お話を頂いて「じゃあ描きますよ」ってなるんですけど毎回売り先が決まってないわけです(笑)。ディナなんかは、特にそう思いました。それなのに「こんなに描いちゃっていいんですか」って。こちらは描かせてもらって嬉しいんですが「本当にすごいな」とその度に思っていました。

____だってディナは女性向けのトラックって言っていたんですよ。色もピンクだし、買い先がそれでものすごく狭くなるのに、さらにあんなに模様を描きまくっている。派手にしている。「これ誰が買うんだろう」って自分も思いました(笑)。

KEN: 茂木ちゃん(FEデザイナー)とデザインを打ち合わせしている時に、つい「社長おかしいよね」って声に出てしまいました(笑)。「本当に描いていいのかね」って言いながら、描いてましたからね。そんなこと言っていたら、制作途中で本当に売ってきちゃいましたから。

____勉強になりますよ(笑)。突きつめてハードコアなことをすればするほど、熱狂的なファンは必ず付いて来るって事なんでしょう。

中西: 半分はやせ我慢なんですよ。今回もそうですが「毎回これどうしよっかな……」って頭を悩ませるんです。今回のトラックショーでも、基本的にどこも引き合いのある車を納車前に展示するのが普通です。ほとんど、どの出展者さんもそうなんです。買い先が決まっていてトラックを造る。だからこそ我々は、あえて我々の造りたいトラックを先に造っちゃおう、と。

KEN: これ乗用車の話じゃないですからね(笑)。

手描きの瞬間を観てもらうことの価値

____本当にそうなんですよ。商用車だから客先あってのトラックなわけです。客先の理解がないと買うことだって出来ないはずなんです。乗用車のように、自分が良ければそれで良いというわけにいかないんですよね。

中西: それでもやはり我々は手描きのデザインに価値を感じているんです。今回のトラックショーでも3日間かけてKENさんにライブペイントをしてもらおうと考えているんですよ。KENさんにお願いしているデザインは、今までにないデザインになります。

____ライブペイントですか。それは素晴らしいですね!

KEN: 描いてるところを見てもらうのはとても良いことです。もうさすがに人前で描いても恥ずかしくないですし(笑)、平気ですよ。逆に見てもらった方が「本当に筆で描いているんだね」って実感してもらえるはずなので。

中西: 見ると絶対に見方が変わると思うんです。僕ももともとはまったくの素人だったし、フレームスやピンストライプの模様を、ステッカーやシールで表現する人はトラックでもよく見ていました。でも実際に4年前に現物を見た時に「これはすごいな」と感動したんですね。

KEN: 日本では本当に認知度が低いんですよ。アメリカではそれこそ普通のおばあちゃんだってピンストライプのことを知っています。日本では車業界の人さえ知らない人が多いので。描いたものは見たことあるけど、描いてる過程は見たことないというのはむしろ普通ですしね。

____そうですね。

KEN: この間も、3日間ぐらいかけて金箔を使ったデザインの看板を描きに行きました。でも発注してくれたお客さんはその工程さえ知らなかったんです。僕が朝から晩まで描いてる姿を見て、すごくびっくりしていたし感動されてました。実際にアメ車の世界でもそうだし、ホットロッドショーに来るお客さんでさえそうなんですから、トラックショーでライブペインティングすることは、ものすごく意味があると思っています。

世界でも独自の進化をとげてきた日本のピンストライプ

____ちなみに今のアメリカでピンストライプのトレンドとかはあるんでしょうか。

KEN: うーん。どうだろう。そんなに目新しいことはないかもしれないですね。淡々とみんな自分の仕事をしているイメージですね。ローライダーはローライダーでやっている人がいるし、ホットロッドはホットロッドでやっているし。その中でローライダーとホットロッドのミックスもありますよね。ローライダーが好きなホットロッドの人もいるし、ホットロッドが好きなローライダーの人もいます。日本人なんかはそれをミックスするのが上手いから、ミックスすることで日本独自のペイントやカスタムに仕上げていきました。ここ3~40年ぐらいの話ですね。

____なるほど。

KEN: それで2008年だったと思います。集大成となるローライダーのショーをやったんです。その5年前ぐらいから「日本のペイントがヤベーぞ」となって世界が日本のペイントに注目したんですよね。そのきっかけを作ったのが名古屋の僕の友達なんですが、ブログで日本のカーペイントをいっぱい紹介していたら世界からすごく反応がありました。日本人は、いろんな良さをミックスして自分の中で練り上げるのが上手いじゃないですか。それでものすごく世界が注目してくれて、逆に日本の車を真似してアメリカで作り出したんですよ。さらに練られてフィードバックしまくる。アメリカ人は独自の発想がすごいから、さらに人気が出てフォロワーが増える。やっぱり面白いですよね。アメリカ本国はここ最近、カーカスタムがすごく盛り上がってきてるんですけど、日本はイマイチですね。不景気だからかもしれないけれど。

____うーん。そうですね。車に手描きのペイントすることが当たり前ではないですよね。

中西: 一番の要因はやはり景気が悪いからです。「失われた30年」というやつですね。

KEN: 日本ではお金持ちもあまりカーカスタムには興味がないんですよね。今年の2月にアメリカで一番権威のあるホットロッドショーがありました。ものすごく大きい建物が7つぐらい使われるんですが、一番メインの建物には1億円以下の車は無いと言う規模なんですよ。その車のオーナーは、名前は絶対に出てこないんですが、いわゆる一流企業の社長とかなんですよね。もしくはメジャーリーグやプロバスケットの元選手だったセレブの人たち。とんでもないお金持ちがオーナーなんですよね。でも絶対に名前が出てこないんです。だからこそ日本のお金持ちにも、もう少しカスタムにお金を使って欲しいんですけどね(笑)。

中西: 日本で売れるものは、市場的な価値があるかどうかで購入されるんですよ だから資産的な価値と言うか、後々に売れるものでなければいけない。クラシックカーでもそうですけど、何年後でも売れると分かっているものしか買わない。日本のお金持ちは、そっちが多いかもしれないですね。

KEN: 楽しんでカスタムしてくれたりすると良いんですけどね。だからこそディナのようなトラックが、喜んでもらえるのはすごく嬉しいんですよね。

カスタムはやり出すと止まらない!?

____ディナは牽くトレーラーにも蝶の模様を、追加で描いていました。

KEN: そうなんですよ(笑)。

____やっぱりカスタムって一度やりだすと止まらない感じがいいんですよね。

中西: ディナのオーナーの杉田さん(ぜひ鍵人訪問記でご確認ください!)は「もう1台トレーラーを造りたい」って言っています。カスタムを楽しんでいて素晴らしいですよね。

____オーナーが実車を目にして気に入って、そこからどんどんカスタムの世界に入っていく。本当に素晴らしいと思います。今の日本だと「これはトラックだからこそできることなのかもしれない」って思うんです。自分の商売道具だし、稼ぎ出す拠り所になるわけです。だからこそお金もかけられる。趣味と実益が合致する良い例ですよね。

中西: 今月はここまでやって、またしばらくしたら「ここをやろう」とか、少しずつカスタムの手が入れられる。トラックってそれがやりやすい環境ですね。少しずつ自分の車を造っていくのは「とても良いな」と思う。

____ピンストライプをひとつずつ増やしていくような感覚ですよね。

中西: それこそ1年や2年とかかけて、少しずつやっていく。タトゥーを入れる感覚も似たものを感じますよね。節目節目で入れていくような。10年経ったらもう入れるところがないとか(笑)。ああいうのは「いいな」と思いますよ。僕は注射すら苦手なので(笑)、自分で入れることはないですけど。

西海岸の空気を胸いっぱい吸っていた

____そういえば KEN さんがペインターを目指されたきっかけは何だったんでしょうか。

KEN: もともと絵が好きで車のデザイナーなどになりたかったんです。それで美大に行ったんですけれど、3年生ぐらいまでは真面目にやっていました。20歳ぐらいからアメリカのカスタムカルチャーにはまって、ちょうどミニトラックブームがあったんですよ。ダットサンのトラックとか。

____ありましたね。サニートラックとか。

KEN: それを乗り始めまして、カスタムして自分でちょっとイラストを書いたりし始めました。そういうカスタムペイントを始めたら、今度ヨシノさんも出展されるストリートカーナショナルズが始まりました。最初に開催されたのが、僕が19歳ぐらいの時。その第2回と第3回にエントリーしました。第2回の時にラットフィンクで有名なエド・ロスが初来日しました。大井競馬場が会場だったんですが、トラックの荷台に乗ってみんなが見てる前で、ライブで絵を描きました。それが日本でピンストライプを生で見るはじめての出来事だったんですね。それ見て始めた同業者が何人かいるんですが、それと同時にムーンアイズで道具を売り出したんです。僕も絵を描いていたので「やってみたい」と思って、すぐ購入しました。

____やっぱり当時からムーンアイズは文化を引っ張る存在だったんですね。

KEN: そうやって試行錯誤しているうちに、大学もつまらないから辞めてしまいました。それでも絵は描きたくて、ちょうど景気も良かったから大きいレストランに絵を描いたり、仕事がたくさんあったんです。先輩の手伝いをしながらそういうものを描いていって、そこから趣味で描いていたピンストライプも少しずつ描かせて頂けるようになって、アパレルのデザインなんかもやっていたので、それにピンストライプの要素を混ぜたり、実際にバイクや車にピンストライプを描いたり、徐々に増えてきて25歳の時にアルバイトを辞めてこれ一本に絞りました。特にこれといった営業しているわけではないのですが、皆さんの紹介でお仕事を頂いています。最初から好きなアメリカンカルチャーの仕事ができているので「ありがたいな」と思いますね。

横浜・本牧と横山剣さんと港湾仕事

____KENさんの生まれは、このアトリエのある湘南でしょうか。

KEN: 僕は横浜の磯子生まれで、小学校、中学校の頃はムーンアイズのすぐ近くに住んでいました。まだ米軍のフェンスが残っていてスーパーマーケットがありましたね。そこは当時の面影が残っていて、70年代の車がバンバン集まるような場所だったんです、それを見て育ちましたから。やはり横浜はアメ車が多かった。それこそカマロとかポンティアックとか。ちょうど僕の先輩の世代が乗っていたので、すごくその記憶は大きいですよね。それでやられちゃいましたよね。絶対に免許取ったら「アメ車に乗ろう」と思っていたし。

____横浜のお土地柄ですね。

KEN: そうですね。その意味では恵まれていましたね。

____クレイジーケンバンドの横山剣さんがインタビューで、「本牧には地縛霊のようにアメリカンカルチャーのグルーヴがある」と言っていましたが、まさにその通りですよね。

KEN: そうですね。剣さんが今60歳近いですよね。僕が53歳になったので5~6歳年上です。剣さんたちが本牧をアメ車で走っていた頃、僕はチャリンコであの周辺を走り回っていました。だから歌詞に出てくるところは全部分かるんですよ。剣さん達が忍び込んでいたところに僕たちも忍び込んでいたし、乗っていたのがアメ車か自転車かの違いだけだったんですよ(笑)。その世代の差はあるんですが、行っていたところは全て分かるのでやはり歌詞がビンビンに入ってくるんですよね。

中西: 僕は47歳ですがギリギリそういう風景が残ってましたね。小学校3年生ぐらいの頃は米軍の居住地区もそうだし、建物も全部そのまま残っていたんです。小学校4年生ぐらいが「あぶない刑事」のスタートだったので、よく撮影も見に行ったというのはあります。僕が中3の頃、剣さんの頭はものすごいリーゼントだったんです。実は会っていて「ああ、あの時の人なんだ」って後から知ったんですよ。

____剣さんといえば、僕がトラックを大黒ふ頭に運び込む陸送の仕事をしている時に、通関の仕事をしていたんです。そこで剣さんが持ち込まれるトラックを全部チェックしていたんです。その時にご本人と「会ってたね」っていう話をさせてもらったことがあります。

KEN: 僕もアルバイトで、大黒や本牧でプールから車を船に積み込む仕事をしていましたよ。大黒もあったし、本牧もあったし扇島や東京港も行きましたね。日当3万円ぐらいくれるんですよ。

中西: 僕も日陸でバイトした事があって東扇島で日産のローロー船の横積みなんかをやってたんですが、日当はすごく良かったですね。

KEN: 大学の時はそればっかりやってました。とにかく日当はめちゃくちゃ良かったですよ。だから当時は結構、羽振りが良かったんです。

____おかしいな。僕の場合はぜんぜん安かったですよ。中抜きされていましたね(笑)。

KEN: 絶対そうですよ(笑)。日当2万は確実に稼げましたからね。下手すると午前中のみで2万なんてありましたから。

ピンストライパーはいつまでも出来る仕事

____それもこれも景気の良い時代の話ですもんね。さて今後KENさんはピンストライプの世界において、どういった活動をされていくのでしょうか。

KEN: 結構もう自分がやりたいことはやり尽くしていますので。アメリカのイベントに行くと70歳、80歳までピンストライパーとして現役でやっているんですよ。一線はリタイヤしているけど、頼まれれば普通に仕事で描いてます。大きい看板を描いてるおじいちゃんもいるし、訊くとみんな10代からやってるので、キャリアは60年から70年になるでしょう。

____確かに。

KEN: そういう話を聞くとたかだか30年だから「全然まだまだだな」って思うんです。ずっとできる仕事だからこそ続けられる限り、「そうありたい」と思いますね。アメリカのイベントに行くと同業者が70人ぐらい一堂に集まるんですが、一番上が82歳とかで、下は10代の子も来ます。みんなそこですごく交流をして、10代の子が描いてればみんなで冷やかしで見に行って、ちゃんと教えもします。日本はそういうのが少ないんですよね。

____世代ごとに断絶しちゃっているのでしょうか。

KEN: いや、アーティスト同士の交流する場が少ないんですよね。何回かそういう場を作ってイベントをやったりもしているんですが、そこの楽しさはもっと伝えていきたいですね。

____ジャンルを飛び越えての交流だったり、ですね。

KEN: はい。10代、20代の子でピンストライプに興味のある子はすごく多くて、ファッションに取り入れてくれたりもしている。逆に30代ぐらいが空白なんですよね。車に対して全然興味もないし、見たことも聞いたこともないって人がすごく多い。逆に今の20代は車が熱いんですよね。変に熱いんですよ。僕らからすると変な車種が熱かったりするので、それはそれでいいじゃないですか。すごく盛り上がってるみたいなんですね。そこをもうちょっと繋げて、もっと若い世代と交流したいし、業界のコミュニティをもっと充実させたいなと思いますね。

現代の20代の好きなクルマ

____そうですね。なんかジャンルにとらわれないカーカルチャーのイベントだったりがあるといいですよね。

KEN: ヨシノ自動車の営業で中林さんっていらっしゃいますよね。ベタベタのシャコタンに乗ってるんですよ(笑)。私には理解できませんでしたが、ノアのシャコタンでした。「すごいのに乗ってるな」と車の話をしていて、「何が乗りたいの」って聞いてみたんですよ。それで何て答えたと思います?「初代セフィーロが欲しい」って言うんですよ。

____それはすごいですね。なんでそうなるんだろう。

KEN: それで調べてみたら本当に高いですよ。300万円以上するんですよ。

中西: 本当にそうなんですよね。

KEN: 僕らからすれば、自分の父親や母親が乗っていて「ダサい」と思ってきた車じゃないですか。それが今の世代にはめちゃくちゃ人気があるんですね。みんな買い漁ってるから凄く高いらしい。

中西: 中林は去年入社した2人のうちの1人なんですが、どちらも車好きなんです。学生の頃からエアサス車高調を入れて、ベタベタにしていたみたいです。それもあのノアはミニバンのショウで賞を取っているらしいんですよ。

____なんかすごくいいですね。

KEN: いいでしょう?

中西: 今時のカーガイって感じでいいですよね。

KEN: その趣向は全く理解できないけれど(笑)、その情熱やアティテュードは素晴らしい。「すごくいいな」と思ったんですよね。今後、若者たちが作り出すカーカルチャーが本当に楽しみですよね。

中西: うちのもう一人の笹岡も、昔のアコード・ユーロRに乗っているんです。VTEC エンジンの。それも大学の先輩から譲ってもらって乗り続けているらしいんです。彼はカスタムというより、オリジナルを綺麗に乗りたいタイプらしいです。

____笹岡さんの方は分かる(笑)。

KEN: 貴重な存在ですよね。そういう若者のカーカルチャーにピンストライプを注入したいし、その子達に見て欲しい。その子たちの車にもピンストライプを入れてみたいし、ジェネレーションをつなげてみたいですよね。

中西: 意外とそういう横のつながりってないものなんですね。

KEN: イベントといってもどうしても商売が先に立っちゃいます。それぞれが個別のブースの上に、おかげ様でどこも忙しいから、あまり話したりする時間がないんです。

「やっていくのが当たり前」で社会貢献活動を

____なるほど。

KEN: アメリカのイベントって僕らが参加する場合、ほぼチャリティなんですよ。その代わりホテル代は出るし、食事も3食でます。塗料も描くところも提供されるんですよ。スポンサーがちゃんといて、すべて経費を見てくれます。70人とか、多い所だと100人単位で集まって、3日間とにかく書きまくるんです。それを片っ端からオークションにかけるんですね。お客さんが自分の車を持ってきて「これに描いてくれ」と頼む場合もあります。「じゃあ3万円ね」って言って3万円分をみんなで書いて、それもチャリティの収益になります。それが1000万から下手すると2000万ぐらい貯まります。

____すごい金額ですね。

KEN: それが例えばアルツハイマー病の基金に提供されたりするんです。子供の病気とか。カーショウの主催者が、そういう方向に持っていってるんですよね。何が良いかというと、それをすることでカーショウの価値がすごく高まるんです。ニュースにも取り上げられて、いわゆる大きい小切手を渡してる写真とかが報道されます。そういう風潮がここ10年でより強まっていますね。それまでチャリティではなかったイベントも、ほとんどすべてチャリティに変わりました。

____イベントが丸ごと社会貢献活動に結びついていくということですね。

中西: それ大事だな。

KEN: そもそもイベントに車を出品している人たちがすごい金持ち。チャリティに慣れているから、小切手をバンバン切るんですよね。すごい恰好いい作品が出来たりすると、ものすごい値上がりするんですよ。それをみんなで競り合って。100万円単位だったり、僕の作品にも何十万という値段がついたことがあります。有名なミュージシャンが来て、そのミュージシャンのギターに僕が描いたり、それをオークションしたり。描いてる方も気持ちが良いし、好きに描けるし、交流しながらビールを飲みながらワイワイやれる。それが社会貢献活動として出来るので、日本でも「そういうことができたらいいな」と思うんですよね。

中西: うん。やりたいですね。 我々がやっているトラックフェスでも、去年は準備期間が短すぎたのでそこまで手が回りませんでしたが、今年は計画的にやりたいです。もともと弊社は社会貢献活動の一環として「共走」という理念で、会社が助けあうとともに、ドライバーの社会的地位を向上させる活動をしています。業界自体は巨大なインフラを支えている業界なのに、注目される機会は少ない。だからこそ若いドライバーが入ってこなかったりするわけで、そこをどうしても変えていきたい。

____そうですね。

中西: チャリティというと、名前も出さずにさっとお金だけ置いておく方が良いという感覚があって、個人のお金はそれでいいと思うんです。でも会社のお金だったらちゃんと出したことを「アピールすべきだな」と思うんですよね。東日本大震災の時も基金に1000万から2000万の金額を供出しましたが非公開でしたしね。

____大事なのは「やって行くのが当たり前」という感覚にしていく事なんですよね。

中西: そうです。そういう視点に立てばチャリティをやって、ちゃんと金額まで出すということはすごく大事なことなんですよね。その意味でいうとお祭りやフェスティバルで、チャリティをすることはアメリカでは根づいてる文化ですよね。どの業界でも。日本は変にうさんくさく捉えられてしまうのが良くないですよね。

KEN THE FLATTOP(高林 憲)様
神奈川県横浜市磯子出身。イラストレーターとして、Tシャツ、ポスター等のデザイン、ピンストライパーとしては車、バイク等の他にサーフボードへのペイントを得意とする。2006年、英国Korero Booksより発行された「PINSTRIPE PLANET」では世界各国36人のピンストライパーの1人として紹介される。オリジナルアートはホットロッド、サーフィン、TIKI、日本古来の魑魅魍魎を題材に、アルミニウムボード、スケートボードブランクス、カスタムペイントを施したプライウッド等をキャンバスにエナメル塗料で描く。日曜大工とBBQが趣味。

KEN THE FLATTOPさんのHPはコチラ!

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